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「おばあちゃんの家」は7才の少年が山奥の祖母の家に預けられるところから話が始まる。母親が仕事を見つけるまでの数日間の出来事だが、ゲームとコカ・コーラとマクドナルドに象徴される都会の生活にどっぷり浸かって育った少年が、物物交換で成立っている、1日に1度しかバスが通らない寒村の生活になじめるはずがない。その上、祖母は口がきけず、字も読めないからコミュニケーションもうまくいかない。すっかり苛立った少年は、祖母に対して来る日も来る日も悪意に満ちた行為だけを繰り返す。ところが祖母はひたすら孫を理解しようと努めるのである。そして孫の望みを叶えるためのあらゆる努力を惜しまない。それは忍耐とか教えとかいうよりも奇蹟に近い。
村の少女にほのかな憧れを抱く以外には、近所の子供たちに心を開くこともなく、利己主義一点張りの子供として描かれている主人公が、母親が迎えに来てバスに乗り込むとき、無言のまま5枚ほどのカードを差し出す。そこには苦しそうな表情の祖母が「私は病気です」という添え書きとともに描かれ、また、元気そうな彼女の顔が「私は元気です」という言葉と共に描かれていた。カードの宛て先は少年の自宅だ。言葉を交わすこともなく孫の乗ったバスを見送った祖母は、これまでと変わったようすもなく歩き慣れた道を、戻っていく。腰を深く曲げて。
「手紙」の方は戦後のボスニアが舞台になっている。サッカーをしている途中で杖を折ってしまい、母親にひどく叱られてる片足の(もちろん地雷で片足を失った)友人のために、杖を送ってくれるように国連に手紙を書く少年の話である。彼は手紙を送りたいのだが、村にはポストが無い。郵便局を求めて彼の小さな旅が始まる。そしてたった1日のことではあるが、少年は多くの経験をする。彼を助けてくれる大人たちはそれぞれ戦争による不幸を背負っているにもかかわらず、やさしい心を失わずに生きている。少年は最終的に手紙を投函することができずに戻ってくるのだが、そこで彼がいっとき夢を見るシーンがある。その中で友人は新しい杖を嬉しそうに見せ、妻を失って落胆していた老人は楽しそうに妻と馬車に乗っている。「僕は手紙を出すことができなかった」というモノローグで終わるこの作品は、しかしながら希望を感じさせる作品だった。 |
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