第7回 ウラジオストック映画祭便り | 扇 千恵 | |
クロージングフィルムは、日本でもソビエト・ニューウエーブ・シネマとして紹介された『タクシー・ブルース』(1990年)の監督、パーヴェル・ルンギンの『ツアー(皇帝)』(2009年)だった。 イワン雷帝を演じているのはルンギンの作品になくてはならぬピョートル・マモーノフ(『タクシー・ブルース』のミュージシャン、『島』の主人公)である。 舞台は国民が飢えと対ポーランド戦争の影響で苦しんでいた1565年のロシア。イワンはあらゆる謀反と裏切りに対して疑心暗鬼となり、残虐極まりない拷問と処刑をおこなう。このように皇帝こそが唯一の法律であった時代に彼の幼馴染である府主教のフィリップ(演じるオレグ・ヤンコフスキーの最後の作品となった)は、皇帝のやり方に異を唱え、身を以て抵抗する。モラルと正義のための彼の闘いには言葉を絶するものがあった。 扱っている題材は異なるものの、オープニングとクロージングの両作品が宗教的な作品であったことには現在のロシアが反映されていると言えるだろう。いまロシアでは宗教が復活しているとよく言われる。表面上信教が禁止されていたソ連の時代にも、地方の教会は破壊されずに残されていたし、こっそりと教会に通う人たちは大勢いた。もとよりロシア人は信仰心の篤い民族であり、オカルト現象や奇跡を信じる人たちであるから、このような作品が作られることに驚きはないのだが、なぜ、今回の映画祭で揃いもそろって?という印象は免れ得ない。 クロージングの後でロシア人の知人とその問題について少し話をした。彼女が言うには、いまロシア人はとても祈りたがっている、懺悔をする気持ちになっている、というのだ。彼女が話したのは、過去の歴史の中でロシアが行なった過ちに対する懺悔という意味だが、同時に現在の彼らを取り巻く状況の激変、不安定さも関係しているのではないか、と私は考える。 日本では残念ながら公開されていないのだが、ルンギンの前作『島』(2006年)が国内で予想以上にヒットしたという事実がそれを物語っている。戦争中、ナチスに命じられて目の前の同僚を射殺した(実際は生きていたことが判明するのだが)男が離島の修道院で懺悔の一生を送る話だ。 主人公を演じるマモーノフの演技が真に迫るものであったこともヒットの理由だが、厳しい美しさを持つ北海の孤島を背景に、作品そのものが神に対する祈りであると言っても良いようなこの作品は懺悔をしたがっている国民の心をとらえたと言われた。そして、そこには現代ロシアの人々の生活を取り巻く不安定感、犯罪が増大する社会に対する不信感がある、ととらえられている。 |
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