第7回 ウラジオストック映画祭便り | 扇 千恵 | |
コンペティションに出品されたロシア映画は『一部屋半、あるいは故郷へのセンチメンタル・ジャーニー』(2008年、アンドレイ・フルジャノフスキー監督)だった。亡命作家でノーベル文学賞受賞者のイォシフ・ブロツキーについてのフィクションである。彼をめぐる事実との一番大きな違いは、彼が帰国を果たさなかったのに対して、映画の中では彼を帰国させている点だ。画面には回想として彼が少年時代を過ごした50年代終わりから60年代初めのペテルブルグの雰囲気が映し出される。その時代を知るロシア人にとってはたまらなく懐かしい映像だ。しかし、その時代を知らない人々にとっては少々分かりにくい。主人公を演じたセルゲイ・ユールスキーは来日したこともある著名な俳優で、監督も1939年生まれ、古典的な作りのしっかりした作品だったが受賞はなかった。 ロシア映画新作の中で印象に残ったのは『アントニーナは振り返った』(2008年、グリゴーリー・ニクーリン監督)である。2007年に亡くなった監督の後を継いで完成させられたこの作品について、プロデューサーの女性(監督の妻か?)が舞台で作品完成に至る経過について話をした。 ストーリーは、ある夢を見たのをきっかけにこれまでの自分の人生はすべて自分が望んだものではなかったと悟る初老女性の行動を追ったもので、これはとても普遍的な理解しやすい話だった。おまけに夫が精神科医で、その専門職ゆえに妻の悩みを正しく理解することができないというのも、皮肉な組み合わせである。 筆者にとって印象的だったのはその夫を演じた俳優セルゲイ・ドゥレイデンで、役柄ゆえではなく俳優その人の存在自体からあふれ出る並々ならぬ個性に、ふと気づいたことがあったからだ。 彼はソクーロフの『エルミタージュ幻想』で主役のフランス人外交官キュスティーヌを演じた俳優だ。上映後、多くの質問が彼に向けられた。彼は、演じた後でもこの作品が自分には良く理解できていない、と答え、あまりにも言葉が多すぎると語っていた。 私は持ち前のミーハー根性を発揮して彼に近づき、日本であなたの『エルミタージュ幻想』を観た、と伝えると、プログラムにそのロシア語題名を書いてくれた。今回の映画祭で私が観た作品のうちの3作品に出ていたので、かなり良く出演している俳優なのだ。とにかく生のご本人も大変個性的な人だと思う。 |
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