第7回 ウラジオストック映画祭便り | 扇 千恵 | |
大きな収穫は2本のカザフ映画と1本のウズベキスタン映画と出会えたことだ。 その中で最も良かった作品は『もうひとつの岸』(2009年、グルジア・カザフ映画)である。監督はグルジア、トビリシ生まれのゲオルギ・アヴァシビリという45歳の短編作家で、この初の長編映画はアルメニア、スペイン、ドイツの各映画祭で賞を受賞している。 民族紛争のため父をアブハジアに残したまま、トビリシに避難してきた12歳の主人公テドは母と2人、粗末な小屋に棲んでいる。貧しくて学校に行くことはおろか、最低限の家庭生活さえ保障されていない彼は、金のため小さな犯罪にも手を染めざるを得ない。母に男のいることが分かるが、そこにも何ら夢や希望はなく諦めと絶望だけしかないことを悟った彼は1人で父親に会いに行く決心をする。 トビリシからアブハジアまでの無一文の旅が始まる。道中、さまざまな大人たちが彼を助けるが、それは単なる親切心や同情心と呼ぶにはあまりにも複雑な想いを経た上での行ないなのだ。なぜなら、大人たちの一人ひとりがやはり、民族紛争に心も体も十分に傷ついているからである。 心を打つのは描写がリアルであるということ、父を求めて幾千里、といったセンチメンタリズムをいっさい排しているという点にあるだろう。ひどい斜視を持つ少年は何度も強くまぶたを閉じて、瞳をもとに戻そうとするかのように見える。彼は、自分にとって重たすぎるこの現実を、それでもしっかりと見ておこうとしているのだろう。 この映画が日本で上映されると良いのに、と強く思う。 もう1本のカザフ映画は『南の海の歌』(2008年、カザフ、ロシア、ドイツ、フランス映画)で、監督はキルギスのマラト・サルウルウ(1957年生まれ)。雄大な草原が主人公だと言っても過言ではない、壮大な自然をバックにした真摯な人たちの物語である。 親しくつき合って助け合ってきたロシア人とカザフ人の2家族に亀裂が生じたのは、ロシア人の家庭に生まれた赤ん坊の皮膚が浅黒かったからだ。ロシア人のイワンは自分の妻とカザフ人のアッサンとの仲を疑い始める。そのために2人の夫も、その妻たちも、生まれた子供も、それぞれが苦しみさまざまな問題を引き起こしてしまう。 やがてイワンが自分の家族のルーツを知ることによって問題は解決するのだが、彼のルーツ探しの旅は大自然に抱かれた中での自分自身を知るための旅ででもあって、とても美しい。そして真摯に悩み、解決しようと努力する人間の姿は自然に劣らず美しいことも思い知らされる作品だった。それにしても、女は強い。夫同士が争うあいだにも、ウオッカを酌み交わして歌を歌い、踊りつつ共感を求め合うのだから。 |
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