[かいせつ] この作品は、ロシアでも広く知られたジャンヌ・ダルクを扱ったこともあって、ソビエト時代、国内で6000万人が見たというヒット作である。
監督のグレーブ・パンフィーロフは、1933年生まれで、1968年の長編第1作「火の中に浅瀬はない」で、ロカルノ国際映画祭で最優秀作品賞を受賞。この映画は、それに続く第二作である。
パンフィーロフ監督は、「もともとジャンヌ・グルクの映画を作りたかったが、歴史物は製作費がかさむためこのような内容に変更した」と語っている。それだけに、劇中劇として演じられるジャンヌ・ダルク像は、迫真の力強さを見せる。
一転して、このジャンヌ・ダルクを演じるパーシャは、女優になりたい一心で演劇サークルに入り、その公演で映画監督に見いだされたラッキー・ガール。ところが彼女は、日常生活では全くさえない地方出身の娘。しかも、妻子ある優柔不断な男、アルカーディーとの将来のない恋をいつまでも続けている。
ジャンヌ・グルクの物語は、無声映画の時代、メリエスが1900年に作ったものをはじめとして、有名なカール・T・ドライヤー監督の「裁かれるジャンヌ」(1928)やセシル・B・デミル、ロベール・プレッソン、ヴィクター・フレミング、ロベルト・ロッセリーニなどの大監督による10数本の映画があり、ファルコネッティ、イングリッド・バーグマン、ミッシェル・モルガンなどの大女優が演じてきた。この映画は、そうした歴代の名作や名ジャンヌ・グルク女優たちに勝るとも劣らない巌粛な場面と演技を見せながら、一方でメロドラマ風の日常生活を描きだす。荘厳な歴史劇とそれを作る人々の生活。その落差がこの映画の不思議な魅力となっている。
主演のパーシャを演じるインナ・チュリコーワは、パンフィーロフ監督の妻で処女作以来、主演を務めている。 |
[あらすじ]
ジャンヌ・グルク裁判の荘巌なシーンが始まる。これは、撮影中の映画の一場面で、ジャンヌ・グルクを演じているのは、パーシャ。彼女は繊維工場に務める孤独でおとなしい娘である。
彼女は、あるパーティーでアルカーディーという男に声をかけられ、付き合うようになる。ところが、喜びも束の間、アルカーディーから自分は既婚者だと打ち明けられてがっかりしてしまう。彼は妻と不仲で、彼女に気晴らしを求めていたのである。それが判った後も、パーシャはこの男から離れられない。男の妻は、怒って家を出てしまう。
一方、パーシャは女優になりたい一心で、かねてから演劇サークルに入って活動していた。そのサークルの公演中に映画監督にスカウトされるという幸運が訪れる。
この喜びをアルカーディーに伝えようと帰宅すると、そこには彼の妻が迎えにきていた。パーシャは、「ジャンヌ・グルク」を演じるためにモスクワヘ旅立つ。一度は脚本家に演技をけなされ、怒って故郷に帰ろうとするが、監督に諭されて思いとどまる。
撮影が終わり、パーシャは失意を胸に抱いて帰郷する。そこでは、友人たちの歓迎とアルカーディーとの再会が待っていた。その頃、モスクワでは映画が大成功を収め、街角にはパーシャの大きなポスターが貼られていた… |
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[スタジオ/製作年] レンフィルム・1970年製作 |
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[スタッフ] 監督:グレーブ・パンフィーロフ
脚本:エフゲーニー・ガブリロヴィッチ
グレーブ・パンフィーロフ
撮影:ドミトーリー・ドリーニン
美術:マルクセン・ガウフマン=スヴェルドロフ
音楽:ワディム・ビベルガン
音響:G・ガヴリローワ
編集:M・アモソーワ |
[キャスト] パーシャ:インナ・チュリコーワ
ワーリャ:ワレンチー・ティチキーナ
カーチャ:タチヤナ・ステパノーワ
アルカーディー:レオニ―ド・クラヴリョフ
パヴリック:ミハイル・コノーノフ
ジーナ:ニンナ・スコモロホワ
トーマ:タチヤナ・ベドワ
映画監督:ユーリー・クレピコフ
オディノコフ:G・ベグロフ
ステパン・イワノヴィッチ:Y・ヴィスボス
ステパン・ヴィタリェヴィッチ:V・ワシーリェフ
コーション:E・レベデフ
マシュール:V・ソボレフ
ボリシュカ:ゲラ・ジューコフスキー |
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[ジャンル] 長編劇映画
[サイズ] 35mm / 黒白 / シネマスコープ
[上映時間] 1時間30分
[日本公開年] 1992 レンフィルム祭で上映
[配給] 日本海 |