[かいせつ] 19世紀、ハンガリーが生んだ最高の作曲家であり、ヨーロッパきってのピアニストであったフランツ・リストの愛と芸術の生涯を描く伝記映画。「チャイコフスキー」(1970年)によって音楽家の伝記映画に記念碑をうちたてたソビエト映画界が、リストを生んだハンガリーの国立マフィルム撮影所と合作で製作した音楽大作である。
この映画では、天才少年と呼ばれた時代にはじまり、やげて、絢爛たるテクニックのピアニストとして、また作曲の第一人者として名曲の数々を送り出した芸術的生涯と、成功の絶頂に生涯を賭けた恋に破れ、悲しみを噛みしめてゆかねばならぬ愛の人としてのリストが抒情味ゆたかに綴られる。また、あらゆる芸術が花と咲き乱れる19世紀ヨーロッパのワグナー、ベルリオーズ、ビクトル・ユゴーなど有名な作曲家、作家などが姿をみせるのも興味深い。
主演は、ハンガリーの舞台・映画界を通じてのトップ・スターであった、イムレ・シンコビッチ。リストの肖像が生き返ったかのような迫真の演技を見せる。
カロリーナを演じるのは、当時ソビエトで最高の人気を誇った美人女優アリアドナ・シェンゲラーヤ。他には、ソビエトきってのグラマー女優と呼ばれたクララ・ルーチコなど、重要なワキ役はソビエトの俳優がかためた。
監督のマルトン・ケレチ、撮影のイシュトバン・ヒルデプラントはじめ主要スタッフはハンガリーの映画人が務め、製作当時としては、考えられるかぎりのベストをつくしている。撮影は、1970年春から71年秋にかけてブタペスト、レニングラード近郊、ウィーン、ローマとベネチア、東ドイツのワイマールなどでロケがおこなわれ、丸2年がかりで完成した。
画面でリストが弾くピアノを実際に演奏したのは、世界で最も高名なピアニスト2人が担当した。リストの曲は現代ハンガリーが生んだ世界最高のリスト弾きジョルジ・シフラが演奏。ベートーベンとショパンの曲はソビエトが生んだ伝説的と言える名ピアニスト、スビャトスラフ・リヒテルが担当。計20数曲が演奏される。なかでもリストがタールベルグと弾き比べをするシーンでは、シフラがひとりで両者を弾きわけ、ヨーロッパ音楽界の話題を呼んだ。
オーケストラ指揮はハンガリーの長老フェレンチーク。ハンガリー国立ヤーノシ放送管弦楽団とブダペスト・フィルハーモニーなどが画面にも出演する。映画では、ハンガリア狂詩曲第二番、パガニーニ練習曲第三番「ラ・カンパネラ」、超絶技巧練習曲第四番「マゼッパ」、ハンガリア幻想曲、ラコッツィ行進出、三つの夜想曲「愛の夢」などの名曲が次々と演奏され、音楽ファンならずとも名演奏に引き込まれることだろう。 |
[あらすじ] フランツ・リストは、「この小僧め、まったく素晴らしい奴だ!」そうベートーベンに叫ばせたほど早熟の天才演奏家として登場した。やがて、あでやかなパリ社交界にピアニストとしてデビュー。あらゆる芸術が花と咲き乱れる十九世紀ヨーロッパで名を成す。絢欄たるテクニックのピアニストとして熱狂的な喝来を呼び、また作曲の第一人者として名曲の数々を送り出した。つねに有名人に囲まれる華麗な日々。理知的でクールなリストは、ヨーロッパ中のあこがれの的であった。彼は人格者として多くの人々から尊敬され、大きな翼をひろげて後進の指導にもあたる教育者でもあった。
だがその成功の絶頂に生涯を賭けた恋に破れる。
「私の生涯は、愛は、つねに音楽によって表現されている。たとえ私たちがひき裂かれようとも、私は生きているかぎり音楽をかき鳴らし続けるであろう」リストは名曲<愛の夢>を贈った愛人カロリーナ・ピットゲンシュタイン候爵夫人にこう書き送った… |
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[スタジオ/製作年] レンフィルム+マフィルム(ハンガリー)・1970年製作 ソビエト・ハンガリー合作 |
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[スタッフ] 監督:マルトン・ケレチ
脚本:レオニド・デリ
イムレ・ケシ
撮影:イシュトバン・ヒルデブラント
音楽監督:フェレンツ・ファルカーシ
ピアノ演奏:ジョルジ・シラフ
スビャトスラフ・リヒテル |
[キャスト] リスト:イムレ,シンコビッチ
カロリーナ:アリアドナ・シェンゲラーヤ
マリー・ダグー伯爵夫人:クララ・ルーチコ
ロ―ラ・モンテス:ラリーサ・トレムポベリスカヤ
ビットゲンシュタイン:イーゴリ・ドミトリエフ |
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[ジャンル] 長編劇映画
[サイズ]
35mm / カラー/シネマスコープ
[上映時間]
2時間36分
[日本公開年・配給] 1972/8/5・日本ヘラルド映画 |