捕虜の群れが、 声もなく横たわる。 ソコロフの長い捕虜生活が始まった。 一度は、ポズナニ収容所の森で脱走を計ったが失敗し、苦斗の2年間という歳月が無慈悲に積み重ねられた。
 その間に、戦況は、ソビエト軍に好転していた。ソコロフは運転手としてポツダムに送られていた。機を狙いつづけたソコロフはドイツ軍少佐を囮りにして自動車を味方の前線へと走らせる。
 祖国はソコロフを温く迎えた。だが、休暇を得てウォロネジの我が家にたどりついた彼は、妻や子供たちの無残な消息を知った。生きているのは息子アナトーリイだけだという。そのアナトーリイも戦場にいる、けれど生きていれば必ず会えよう、ソコロフの願い
に賭けられた勝利の日が、やがてやってきた。
 戦争は終った。だが喜びのソコロフの許へ、アナトーリイ戦死の知らせが届いた。生きる力さえ失ったソコロフのわびしい毎日がくり返される。そんなソコロフに、突然、路傍で見た孤児の印象が強くやきついた。
 孤児はワーニャという少年だった。
 「わたしが誰だか分るかい?「誰?」「お前のお父さんだよ」「僕知ってた!父ちゃんがきっと僕を見つけてくれることを…」
 ワーニャは、この突然の幸福を信じて疑わなかった。孤独なのはワーニャよりも、ソコロフだった。ソコロフはワーニャを抱きしめながら、孤独を捨てようと思った。新しい息子の手をひいて、大地を踏みしめるソコロフの姿は、やがて、生きる力を見せはじめ、ロシアの美しい風土にとけこんでいった――。

Copyright (C) 2004 RUSSIA EIGASHA
本サイトの内容を無断で複製したり転載することはできません


このウィンドウを閉じる
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送