●かいせつ 1964年マンハイム国際映画祭で「映画史上の記録映画ベスト・12」の一本に選出。
1925年12月、ロシヤ共産党大会は工業と農業における社会主義化の促進を決議した。「全線」とは党の基本方針を意味するが、この映画は、それに応え、農業の集団化と機械化による社会主義化を描いたものである。この作品は農村の集団化をテーマに取りあげた最初の映画となった。
撮影はかつてのべンザ県の農村で、土地の農民が出演して行われ、主役を演じたマルファ・ラプイキナも農婦であった。
エイゼンシュテインは、ほとんど記録映画スタイルで、ロシア農村の貧困と後進性、宗教の欺瞞、農民の意識の変化、機械化された農業の持つ可能性などのテーマをモンタージュを駆使して描き、特にエモーショナルな表現を呼び起こす様に努力している。
なお、この映画の撮影は1926年末に始まったが、「十月」の製作のため、一時中断され、29年初めに完成したが、一部に批判を受けたため、手直しを行い、タイトルも「古きものと新しきもの」と改めて、10月に初公開された。
日本では1931年、「全線」という邦題で公開されている。 |
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●あらすじ] 広大なロシアの農村。革命後数年がたっていたが、畑地の隅では貧しく、不潔で前近代的な生活が営まれていた。
農婦マルファもそうした貧農の一人だった。彼女には耕作する馬がない。富農の所へ馬を借りに行っても断わられ、仕方なく痩せこけた牛に犂を引かせているが、牛はついに倒れてしまう。絶望したマルファは政府が提唱する農業協同組合結成の呼びかけに応じる決心をした。
一方、まだ多くの農民は古くからの伝統と因習のなかで暮らしており、父親が死ねば財産一切を息子たちが分割していた。早ばつになれば相も変らず、僧侶を先頭に雨乞いをしていた。まして、土地や収入の集団化をめざす政府の提案にはなかなか耳を傾けようとしなかった。
だが、農業協同組合がその資金で初めて牛乳分雌器を購入すると、農民は分離器の作業を目のあたりにして、目を覚まさせられた。組合員の数は一挙に増加した。さらに組合は種牛を購入して、牛も増え始めた。官僚的な仕事のために遅れていたトラクターの導入もマルファの努力で実現することになる。
村にトラクターが到着した。マルファも乗ったそのトラクターが広大な大地を前進していく。その何十頭の馬に匹敵する大きな力は個人農の私有地を隔てる棚までも次々と倒していく……。
だが農業協同組合が購入した牛乳分離器の作業の成果をみて、組合員の数は一挙に増加した。組合は稼いだ金で種牛を買い、やがて牛も増え始めた。官僚的な仕事のため遅れていたトラクターの導入もマルファの努力で実現することになる。村にトラクターが到着した。それは力を発揮した。……。
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