●かいせつ 第1部、46年ロカルノ映画祭最優秀撮影賞受賞
『イワン雷帝』はエイゼンシュテインの遺作だが、同時にまた、"映画の悲劇"とも云べき不幸な運命を担わされた作品である。エイゼンシュテインは当初、16世紀、内乱時代にロシア統一をはたした傑出した、だが残忍な皇帝イワン四世の生涯を描く三部作の映画を計画した。まず、戦火を逃れてアルマ・アタに疎開中の撮影所で第一部を完成、これはスターリン賞を受賞した。第二部はモスフイルムで撮影、45年に完成したが、時の"ジュダーノフ批判"を受け、改作を命じられた。また、部分的に撮影が終っていた第三部の材料も破棄させられた。これは国家統一を成し遂げ、専制を築きあげたイワン雷帝の残酷無慈悲な弾圧や孤独の影にスターリン体制への批判が映ぜられていたからであった。第二部はスターリン批判後の58年、初公開された。
『イワン雷帝』は全体に優れた造型美を彷彿させるが、歌舞伎の所作事を演技に持ちこむなど、徹底した様式美の追求を行って、そのため長くコンビを組んだ、撮影のエドゥアルド・ティッセとも意見のくい違いを生むことになった。
第二部のラストの二巻で、「色づきでなく色彩で描く」という「色彩モンタージュ論」を試みて、主観的な彩色を行った。
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●あらすじ] 第1部はイワン雷帝が封建ロシアを強力な中央集権国家に統一していくまでを示しており、ここではイワン四世の皇帝即位、タタール占領下のカザン奪回、カザンより帰還したイワンの病、親衛隊の設置、宮廷の反イワン勢力の中心人物、伯母エフロシニヤによる皇妃アナスタシヤの毒殺、そして悲嘆のあまり、アレクサンドロフ村に引退していたイワンが民衆の要望に応えてモスクワへ帰還するまでを描いている。
第2部は大貴族たちの陰謀と闘うイワン四世が描かれ、孤独で残忍な人間像が浮かびあがってくる。イワンの腹心、クルブスキー公の裏切り、またかつての親友で、いまは反イワンの貴族たちと手を結んだモスクワ大司教フィリップの背信で、イワンは孤独を深め、いよいよ親衛隊を使って貴族たちへの弾圧を強める。フィリップ大主教の同族にも容赫ない弾圧の手が及んだ。一方、イワンを殺し、白痴に近い自分の息子ウラジーミルを王座に着かせようとするエフロシニヤは、密かに教会でイワン暗殺を実行しようと企む…
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