タイトル「人魚姫」

馬車が走る

馬車の中
 アンデルセンの横顔
ナレーション「皆さん、この人を知っていますか? ハンス・クリスチャン・アンデルセン。『みにくいアヒルの子』や『マッチ売りの少女』を書いたデンマークの童話作家です。アンデルセンの書いたお話は、百五十年も経った今でも世界中の子供たちに読まれています。『人魚姫』もアンデルセンが書いたお話のひとつですが、童話にならなかったもうひとつのお話があつたのです。この映画は、アンデルセンが書かなかったもうひとつの「人魚姫」のお話です。

クレジツト・タイトル

馬車の中
 少女と婦人。
婦人「知らない人を見つめるなんて、お行儀が悪いわよ。背中をのばして!」

クレジツト・タイトル続く

馬車の中
アンデルセン「どちらに行くのですか、お嬢さん?」
少女「チオニンボルグまで。」

馬車の中
アンデルセン「生まれ変わりって信じるかい?君や私の。ここいるみんなの前世のことを? まだ、ここにいる人たちが生まれていなかった頃の話をしよう。」
少女「いつのこと?」
アンデルセン「ずっと昔、まだこんな乗合馬車もなくて、海を行く船は風の力で走っていた。 人魚の話を聞いたことない?」
少女「船を沈めるんでしょ。」
アンデルセン「よく知ってるね。その人魚の話。 私は何もかも知ってる。君の前世のこもね。信じない?よ〜くお聞き。」

海の中へ
アンデルセン「むかしむかしのこと、深い深い海の底に、人魚たちは住んでいたんだ。 思い出してごらん。 もしかして君も、そこに住んでいたかも…知れないよ。」

深海
 人魚たちが泳ぐ。
 群れからはずれて一人の人魚が海面に向かって上っていく。

ナレーション「海の底に住んでいる人魚は、十五歳の誕生日を迎えて、初めて海の上に顔を出すことが許されます。」

船と花火
 マドロスたちが歌う
ナレーション「三本マストの船の上では、花火が打ち上げられ、船乗りたちが歌い踊つていました。 この日は、若い王子の誕生日だったのです。」
 波間に顔を出す人魚。
ナレーション「海の上に浮かび上がった十五歳になったばかりの人魚姫。 はじめて見る人間の中で、人魚姫の目を引いたのは、この王子の姿でした。時の経つのも忘れて、王子だけを見つめ続けていたのでした。」

 船員が驚き、歌が止む。

舵手「何てことだ!」
船員「人魚だ!」
舵手「持ち場に戻れ。人魚を見てはならん。」
船員「みんな死んじまうぞ。」
舵手「人魚を見るなんて、なんてことだ!海賊に捕まる方がましだ。神様どうかお助を!」

帆船が沈む

人魚姫が王子を波打ち際に運ぶ
 岩の上に横たわる王子。傍らに人魚姫。
人魚姫「目をさまして。 目をさまして。」

王女たちが馬で来る
レオネラ「まあ、あれはアントワン・サン・ゴタルドスキー王子様では?」
王女「ノルマンデイで一番美しい王子が死んだのかしら?」
ジャクリヌ「いえ、生きているみたいです。」
王女「見ておいで。」
 側近が降りていく。
ジャクリヌ「王子様が花嫁候補を三人とも断ったのですって?」
レオネラ「当然よ。三人一緒でも、王子の小指ほどの値打ちもない。」
ジャクリヌ「王子の気に入る花嫁って、この世にいないのでしょうか?」
王女「でも花嫁がいて、初めて王様よ。」

馬に乗せられる王子
王子「あなたが…助けてくれたのですね…」

網をひく漁師たち
漁師「あ〜!何だ、ありゃ? おい、みんな見ろよ。 人魚だ。 ほら、そこに!」
漁師たち「人魚だ。おっぱらえ、おっぱらえ!」

城と町
 やがて夜がきて、人魚姫は用水路伝いに城の真下の池の中に入っていく。
人魚姫の声「わたしがいつも思うのは王子様のことばかり。王子様と一緒にいれたら、私、何もいりません。」
 夜空。
人魚姫の声「お星様、どうか私の思いを伝えて。ずっと王子様を待つているって。 王子様、はあなたを待つています。どこにも行きません。 あ、あれは、きっと王子様!」
 騎士の一行が通りかかる。
従者「さあ、アダルベルト・グリンリフレイノルド・マルデルスキー様のお通りだ。」
 騎士、池の中にいる人魚に気づく。
騎士「さあ。こっちに来るんだ。」

夜の城に日が射し込む
人魚姫の声「風よ風よ。私の願い聞いて!王子様のところへ行ってささやいておくれ。私は待っています、と、待っています、と。」

スリピチウスがやって来る
 スリピチウス、池の縁に腰掛け、人魚に話しかける。
スリピチウス「何か話しておくれ。話しておくれよ!」
 黙っている人魚姫。
スリピチウス「そうか、人魚は口がきけないんだったな。」
人魚姫「王子様に会えなければ、私、死んでしまいます。」
スリピチウス「なんだつて?」

 鐘の音が鳴り響く。

スリピチウス「いいかい。君はもう海に帰りなさい。海の底でパパが心配しているよ。姉さんたちも悲しんでいるだろう。人魚は海の底に住むもんだろう?それとも、君にはしっぱがないとでも? やっばり魚のしっぽがあるじゃないか。そんな体で王子様のそばに行きたいなんて。
人魚姫「王子様に会えないなら、私、死にます。」

城門に番兵たちがやってくる
番兵「海からひきあげられた王子を診るお医者さまだ。開けてくれ。」
スリピチウス「いいかい。王子さまだって自由の身ではないんだ。向こうからやって来てはくれないよ。よし、何とかしよう!ここで待ってなさい。いいネ!」

スリピチウス、酒場に入る
スリピチウス「ビールをくれないか。」
 酒場の中は酔客で盛り上がっている
漁師「あのハゲ野郎にな。」
「ハゲ?」
漁師「ビールの樽を担いでいるヤツに網をかぶせてやれ。」
いでるアイツに網を被せてやれ。」
 漁師のビールを客が飲もうとする。
漁師「俺のだって!」

 スリピチウス、酒場の女主人に問いかける。
スリピチウス「このあたりに魔女はいないかな。」
女主人「(笑って)変なこと言わないでよ。」
スリピチウス「別に怪しい者じゃないんだ。迷惑はかけんよ。」
  スリピチウス、酒場の人々に向かって怒鳴る。
スリピチウス「やめろよ!」
 漁師、酒をあおって、カップを投げ捨てる。
スリピチウス「みんな、どうなってるんだい?」
女主人「この国の王様が死んでからというもの、みんな脳味噌が空っぽになったらしくて、このありさまよ。」
スリピチウス「それは、結構なことで…」
女主人「とんでもない、今に悪いことが起きるよ。」
 女主人、酔客を追い出す。スリピチウスが残る。
女主人「あんた、何で、魔女なんか探してるんだい。」
スリピチウス「ちょっと事情があってね。 海に帰りたがらない人魚がいるんだ。」
女主人「ほんとうかい?」
スリピチウス「本当だとも。神に誓つてもいい。」
女主人「それで、あんたはその人魚が好きだってわけね。」
スリピチウス「とんでもない。」
女主人「自分じゃあ気がついてないだけ。そのうちわかるのよ。 あんたの名前は、スリピチウス。」
スリピチウス「どうして私の名前を知ってる?」
女主人「(フン)あたしにゃあ、なんでもお見通しさ。あんたがどこで何をしてる人間かも。」
スリピチウス「魔女のことも知つてるのかい?」
女主人「あんたは、運がいいよ。あたしがその魔女なんだよ。 夜まで待つておくれ。」

夜の海岸
 スリピチウスと女主人が歩いてくる。
女主人「二本の足と人の心が欲しいってのかい?」
スリピチウス「そう。」
女主人「なんで心なんか。」
スリピチウス「幸せを感じるためさ。」
女主人「あんた、幸せを感じてんのかい?」
スリピチウス「ほどほどにな。」
 人魚姫の側に立つスリピチウスと女主人。
女主人「悲しむことになるよ。海に帰れ戻ればいいのに。王子に好かれたいだなんて。 お礼は、たっぶりともらうよ!」
スリピチウス「何をお望みだい?」
 人魚姫、首飾りを差し出す。
女主人「首飾りなんか、いらないよ! まあ、緑色の髪の毛の美しいこと! あたしの髪の毛もそんな色ならねえ。その髪の毛が欲しいね。」
人魚姫「どうぞ。」
女主人「もう一度、言っておくれ。」
人魚姫「どうぞ。」
女主人「なんて可愛い声だこと。その声が欲しいね。」
スリピチウス「無茶な!」
女主人「黙ってな、あんたは!」
スリピチウス「どうやって王子さまと話すんだ?」
女主人「あたしの知ったことじゃないね。」
スリピチウス「髪の毛だけで我慢しろよ」
女主人「わかったよ。」
 女主人がしゃがむ。
女主人「いいかい。シッポが二つに裂けて、足ができる。だけどいいかい。一足歩くたびにナイフの上を歩くように痛むんだよ。」
スリピチウス「そんなムゴイ!」
女主人「そうしなければ足にはならないよ。 それだけじゃないよ。王子が他の女と結婚したら、次の朝、お前は、この世から消えるんだ。 いやならそれでもいいんだよ。」
スリピチウス「待ってくれ!」
人魚姫「私はそれでも構いません。」
スリピチウス「待ってくれ。誰かかが人魚姫のtめに、命をささげたらどうなるんだ?」
女主人「命を捧げるものがあったら、また別さ。永遠の魂が手に入る。人魚姫はいつまでも生き続ける。 夢のような話だ。 だけど、他人に命をくれる馬鹿はいないよ!あんたは酒場に帰って待ってなよ。」

野原
 女主人が、魔法をかけている

酒場
 漁師がドアを開けて。
漁師「とんでもないもの見てしまったぞ。」
 酒場に駆け込む漁師。
パン職人「また俺達を騙そうってか?」
漁師「見たんだ。人魚を。」

野原
女主人「きれいな足が出来たね。」
人魚姫「この音は何?この胸を叩く音…」
女主人「お前の心臓の音さ。
人魚姫「王子様と同じ音?」
 人魚姫が歩く。
 振り向く人魚姫。
女主人「もっと歩いてごらん。爪先で、爪先で。 足の痛みくらい、大したことない。これからどんなに心が痛むことか。」

酒場
漁師「この国の不幸は人魚のせいだ。 王様が死に、悪い病気がはやる。昨日、どこかの王子が海から引き上げられたそうだぜ。 誰が船を沈めたと思う?人魚だ! 俺のお袋が聞いてきたんだ。」
 ドアをノックする音。
漁師「開けるな。」
スリピチウス「手をどけろ!」
 女主人が入ってくる。
女主人「アタマ、冷やしておいで! さあ、渡したよ。」
スリピチウス「それじゃあ、行こうか。」

通り
人魚姫「あっ!」
スリピチウス「どうした。痛むのかい?」
人魚姫「それほどでも。」

 スリピチウスが歌う
ナレーション「こうして、人魚姫は、 人間と同じように二本の足で歩けるようになりました。 魔女は、人魚姫がこの足で世界中の誰よりも上手に踊れる力を与えてくれました。 でも、人魚姫が一歩、歩くたびに、その足はナイフの上を歩くように痛むのです。 顔では微笑んでいても、本当は、 一足、一足、血を流すようような思いで人魚姫は歩いていたのです。 それでも人魚姫は、人間の暮らしの中に入っていきました。一時間でも一分でも早く、王子様に会いたかったからです。 その王子様は、いま、王女様のお城にいました。そこで、王子様は、夢を見ました。海から王子様を引き上げてくれる緑色の髪の毛の不思議な少女。 それは人魚姫だったのですが、王子様にはそれがわかりません。 王子様は、王女様を海から救け出してくれた、命の思人だと信じていたのです。 もしも、王子様が人魚姫を好きになって結婚してくれるなら、人魚姫は本当の人間となって、幸せな一生をおくることができます。 けれど、王子様が他の女の人と結婚したら、人魚姫の体も魂も粉々に砕け散り、この世から永遠に消え去ってしまうのです。」

人魚姫「王子様のところへいくの? 王子様のところへ。」
スリピチウス「あ、ああ。」

城内
王女「王子様、私とあなたは運命の糸で結ばれている。昨日、教会に行った後、お城に戻ろうとしたら、突然、変な予感に締め付けられ、叫んだの"海へ行きましょう!"って。 誰かの魂がこの世から離れようとしていると直感したの。私たちが海岸に着くと、遠くに何か白いものが… ジャクリヌはカモメだといいましたが、私には人間のように思えたの。とても放っておけず、馬もろとも海の中に…」
王子「溺れそうになったとか。」
王女「私の馬はサメにさらわれてしまった。」
王子「実は不思議なことに…私は…」
王女「どうしたの?」
王子「いや、あれは、夢でした。美しい夢でした。」
レオネラ「どんな夢?」
ジャクリヌ「その夢のお話し、聞きたいわ。」
王女「私のことを夢にみたのね。」
王子「違います。」

通り
 人魚姫とスリピチウス
スリピチウス「ここで待ってるんだ。誰とも話をすんじゃない。誰にも返事をするな、いいね!」
 漁師が来て、人魚姫に話しかける。
漁師「教会へ行ったか?」
人魚姫「教会?」
漁師「知らねーのか。、どっから来た?」
人魚姫「返事はしないって約束したの。」
漁師「お前、人魚だろ?」
人魚姫「そうよ。」
漁師「嘘をだろ。 何、人魚だって! おい、みんな!こいつ、人魚だとよ!」

王女の部屋
 番兵が駆け込む。
番兵「アルトゥール王からの使者だという者が、王子様に会いたいと。この浮浪者が…」
王子「何の用だ?」
スリピチウス「海から助け出された王子様ですね。」
王子「王子のアントワン・サン・ゴタルスキーだ。この王女が私を助けてくれたのだ。」
スリピチウス「二人きりでお話したいことが…」
王子「王女との間に隠し事はない。」
スリピチウス「王女様、あなたのようにお美しい方を、私はこれまで見たことがありませんねえ!」
王女「なぜ、アルトゥール王の名を…」
スリピチウス「私のような者が突然尋ねて来て、会ってくださいますか?」
王女「私は誰とでもお会いするわ。」
王子「出ていき給え。」
スリピチウス「私がここに来た訳は、びっくりするものをお見せするため。 私と一緒に参りましょう。 さあ! さあ、こちらへ!」

街の広場
 スリピチウスが城門を開ける。
住民(男)「人魚を焼き殺せ!」
住民(女)「火あぶりよ!」
 処刑台の上で。
漁師「おい、みんな!みんな! 人魚を捕まえたぞ! 王子様の船を沈めたの、おめーだろ?」
人魚姫「私とおねえさまたち」
漁師「この人魚め。火あぶりにしろ!」
住民たちの合唱「火あぶりだ!火あぶりだ!」
男の声「人魚は殺せ!」
 スリピチウスが処刑台に駆け上る。
スリピチウス「待て!何だと言うんだ?」
漁師「人魚だ!白状したんだ!」
スリピチウス「待て。待つんだ。」
 スリピチウスが面を被る。
スリピチウス「私は、私こそは、海の王、ネプチューンだ。海の王の命令だ。かしこまって聞け!"火あぶりはやめろ"」
 スリピチウスが柱に登る。
スリピチウス「気がつかなかったかい? 旅の役者でござーい。これは私の娘だ。娘よ、私たちは何隻沈めたかな?」
人魚姫「何隻も。」
スリピチウス「さあ、帰ろう。」
騎士「愚か者め! 愚か者めが! 皆、馬鹿にされてんだ。あれは間違いなく人魚だ!」 
 住民たちの合唱。
「疫病の元よ。」
「疫病の元だ。」
「火あぶりだ。火あぶりだ。」
スリピチウス「王子様、あなたは、罪のない娘が殺されるのを黙って見ているつもりですか?」
王子「罪のない娘とは、あの人のこと?」
 スリピチウスが王子の手を引いて、処刑台に連れてくる。
スリピチウス「町の皆様方!この方は、海から救い出された王子、サン・ゴタルドスキー様だ。王子が皆さんに今、この娘が人魚かどうかお話くださる。王子様、どうぞ。」
王子「皆さん。この人は、人魚じゃない。」
漁師1「俺もさっき、人魚じゃないって言ったんだよ…」
漁師2「そうだ娘さんに失礼だ。」
騎士「誰が何と言おうと、私の話こそ真実だ!火あぶりにしろ!」
王子「私を侮辱するのか。剣を受けてみよ。」
レオネラ「あの娘、八つ裂きにされるわ。」
王女「お黙り。」
 王女が王子と騎士の決闘をとめる。
王女「おやめになって!なぜ剣を抜いて戦おうとなさるの?」
人魚姫「私のせいです。」
王女「あなたは誰なの?」
人魚姫「人魚です。」
スリピチウス「そりゃあ違うな。この娘は、自分の言っていることが分かってない。人魚なら魚のようなシッポがあるはず?」
王女「ものども、この女を牢獄に!」
スリピチウス「話を聞いてください。王女。」
漁師「お前は何者だ。この女の知り合いか?こいつも牢屋だ!」
スリピチウス「私は、何を隠そう海から救い出されたアントワン王子のお付きのものだ。」
王女「このふてぶてしい男が気に入ったわ。」
王子「私もです。」

宮廷の舞踏会
 王女と王子。
王子「私は十五歳の時から、生涯を捧げる唯ひとりの女性を探しています。その人は、この世のどこかにいるのでしょうか?」

 騎士が入ってきて王女の方に向かう。
大臣「勇敢なる騎士、アダルベルト・グリンリフ・レイノルド・マルンデルスキー殿、ご到着。」
 騎士、王女の前にやってきて。
騎士「あなたの美しさは、遠く私の国にまで聞こえています。」
 音楽の箱が回る。
騎士「私の領地には、城が七つ。家来百二十名。酒蔵に三千樽の酒。ひつじ十二万頭がおります。王女に結婚を申し込みます。」
王女「あなたの好意に感謝します。 明日、試合を行います。勝った方のかたと結婚いたします。」

城壁を這うスリピチウス
 スリピチウス、牢の人魚姫に囁く。
スリピチウス「しっ。いいか、もし名前を聞かれたら、王女のコンスタンチアだと言うんだ。」
人魚姫「怒らないでね。私、嘘なんてつけない…」

宮廷の舞踏会
ジャクリヌ「王子様、秘密を守れますか?」
王子「はい。」
ジャクリヌ「王女様は、祈ってます。あなたのために。このベンダントは、王女様から。」

 レオネラが騎士の側に寄る。
レオネラ「秘密を守れますか?王女様は、あなたが勝つと信じてます。これは、王女様から。」

 スリピチウスがレオネラに近づく。
スリピチウス「実は、あの娘はある名高い公爵の娘らしい。」

王女「そうだったの!どうして気がつかなかったのかしら。人魚だなんて… 何か大事な秘密があるのよ。」
ジャクリヌ「秘密が?」
王女「あの娘はどこ?」
レオネラ「牢屋に…。」
王女「牢屋?」
レオネラ「命令されたじゃありませんか。」
王女「あの娘を今すぐここへ!」
レオネラ「名前を隠すなんて、ロマンチツクだわ。きつと、辛い過去があんのよ。」
ジャクリヌ「彼女が誰か想像つく。ノルフォリスキー公爵の娘よ。騎士と一緒に駆け落ちしたっていう噂の…」
侍女1「その騎士は?」
侍女2「殺されたのよ。」
レオネラ「そうよ。」
王女「あの娘の秘密はそっとしておきなさい。神様に誓ったその秘密を汚して、私たちどうしましょう」。
ジャクリヌ「どうしましょう!」
レオネラ「どうしましょう!」    

大臣「秘密に包まれたる、高貴なる姫君。」
王女「さあ、こちらにいらして。」                 ′
 人魚姫が、王女のところへ行く。
王女「あなたの秘密は神聖なるものです。もう決して、問い詰めたりはしないわ。」
 王子と人魚姫の踊りの用意が整えられてゆく。
人魚姫「やさしい人。王女様って。」
王子「私の命も救ってくれた」
 王子と人魚が踊る。
 人魚姫、王女に近づいておじぎをする。
王女「どこで、そのような踊りを習ったのですか? 私もあなたのように踊れたら幸せでしょうね… もう侍女たちにはうんざり。話すことは、建て前や嘘ばかり。 本当のこと言って!私って美しい?」
人魚姫「お美しいです。」
王女「これからも、ずっと私の側にいてね。」

魔女の歌
女主人「アタシは魔女。魔法の力で何でもかなえる。十五になつた人魚姫が美しい王子様を見そめた。人魚のくせに王子様を好きになって、そばにいたいという。アタシは、スリピチウスの願いを聞いて、二本の足を作ってやったんだ。お礼はこのみどりの髪の毛。どうだいアタシにお似合いだろう。 アタシは魔女。欲の深い魔女様さ。愛を信じる人間なんて、みんな愚かものよ。お城に行った人魚姫は、王子様と会えたし、王女様とも仲良しだ。これじぁアタシの商売はあがったりさ。ここはひとつ、この欲の深い魔女様が、お城に行って、ぶち壊してやるとしようね!」

城内
大臣「コルヌエルから来られた公爵ご息女、アリサ・マルガリータ・エリザベータ様。ローマに向かう途中です。」
王女「遠路はるばるお疲れのことでございましょうね。」
女主人「全然。」
騎士「どうぞお相手を」
人魚姫「なんだか、気が向かないんです。」
騎士「魚のしっぽが邪魔になる?」
王女「この方は私の客様よ。」
 王子と騎士が争って出て行く。
王子「行儀作法を教えてやる。」
 争う二人の前に王女が現れる。
王女「舞踏会の気分を壊さないで!明日の試合で、存分に戦って!」
 騎士、去る。
王女「心配ないわ。ふざけているだけ。あなたもそのうち慣れてくるわ。」

海岸に座る人魚姫と王女
王女「私のこと、やさしい人間だと思う?私は、見栄つ張りで、意地悪で、羨ましがり屋。それに、おしゃベり。 踊りを見たり、男の人の気をひいて、おもしろがっているように見えるけど、本当は自分の気持ちがわからないの。 人って、誰かひとりのためにだけ、心を尽せるものかしら… ひとりのためだけ…」
人魚姫「王子様は、あなたを愛しています。」
王女「私は、王子様を本当に愛しているのかどうか… いつか、あなたの秘密を聞かせて欲しいの。素敵な人を探してあげるから。」

スリピチウスと女主人
スリピチウス「俺はなんて馬鹿なことをしたんだ。もし、王子が殺されたら、人魚姫の生きていく意味がない。 王子が勝って王女と結婚しても、やっぱり人魚姫は死んでしまう。」
女主人「アタシが、何とかしようじゃないか。人魚姫があんたを好きになる薬はどうだい?人魚姫はあんたのものだよ。」
スリピチウス「余計なお世話だ。人魚姫は、王子様を愛しているんだぞ!」
女主人「困ってんだろ!」

海辺に佇む人魚姫

武器庫
スリピチウス「これは、ナワールスキー公爵が、三人の敵を見事打ち負かしたヤリですよ。」
王子「ありがとう。」
スリピチウス「こんなもの、折れてしまえばいいんだ。」
王子「何?」
スリピチウス「え?」
王子「変だな。」
スリピチウス「変なのは、王子様の方。あなたのように鈍感な人はいませんよ。」
王子「何だって?私を誰だと思っている。」
スリピチウス「王子様です。 あなたは、いったい誰との結婚をお望みで?あなたには何も見えていない。本当の愛が見えていない。あなたの探している女性は、まったく別の人ですよ。」
王子「真っ二つにしてやろうか?」
スリピチウス「どうぞ。」
王子「手が動かない。」
スリピチウス「心が動かないのは、目標を誤っているから… まだ分からんのですか。あなたの探している王女は、別世界に住む王様の娘、つまり、人魚姫。いや、その…」
王子「酔っているのか?」
スリピチウス「いいえ、とんでもない。あなたは、彼女と踊ったじゃありませんか。私なら彼女のために、彼女のために決闘する。」
王子「私の心配より自分の心配しろ。」

試合の場
 人々は道化を見物して近づく試合の時を待っている。
 人魚姫が王子に近づく。
王子「私は、死んでいくような気がする。こうして話せるのは君だけだ。私が死んだら、王女様に伝えて欲しい。片時もあなたのことを忘れたことはない、と、そう伝えておくれ。」
スリピチウス「王子様、時間です。」
王子「王女様に会えるのであれば、私は何度でも生まれ代わってみせますと…」
 王子が兜を被ろうとする。
人魚姫「待ってください!待ってください!お芝居ではないんでしょ。死んでしまいます。お互いに相手を殺しあうのでしょ。やめてください!やめてください!」
 観衆は大笑いする。
 スリピチウスが人魚姫を見物席に連れてくる。
王女「この世の中は辛いものね。」
長官「試合の勝ち負けは、この世の最高のものである。人は死んでも名誉は生き続ける。勇気ある騎士たちよ戦え。槍が折れるまで。ふたりの戦いを美しい方たちがご覧になつているぞ。」
 ラッパが鳴る。
 王子のアップ。
スリピチウス「気高き騎士にして王子、アントワン・デ・ラレン・プアトゥ・レフェーブル・サン・ゴタルドスキーは、騎士、グリンリフレイノルド・マルンデルスキーに対し挑戦する。」
騎士の従者「勇敢なる騎士、アダベルト・グリンリフ」は挑戦に応ずる。」
王女「あなたは、心配しないで。」
 住民の合唱が始まる。
住民1「どっちが勝つか。」
住民2「やっつけろ!」
住民3「胸を突け!」
住民4「やっつけろ!」
 合唱、終わる。
王女「素敵なドレスね。このビロウドは、ベニスから?」
女主人「いえ、これを手に入れたのは、実は、その…」
 騎士が倒れる。
王子「どうして、二つのペンダントが?これは、いったい…?」
 騎士が王子を突き刺す。
漁師「卑怯なやり方だ!」
 騎士が近づいてくる。
女主人「やったわね、王様ってわけネ。」
騎士「あなたに結婚を申し込みます。王女。」
王女「そんな卑怯なやりかたで結婚するおつもり?」
 住民たちが怒る。
住民「人殺し!国へ帰れ!」
 試合場に横たわる王子。
レオネラ「試合のおふれを、もう一度、出しましょう。王女様のお顔を描かせて、あらゆる国々に知らせるのよ。」
ジャクリヌ「歌を作って、歌わせるのも悪くない。王女様が、卑怯な騎士を追っ払い、本当の王子様を探してると、歌うのよ。」
王女「やめて。王子が生き返ってくるわけではないわ。」

空をカラスが飛ぶ
女主人「王子を生き返らせても、愛しているのは、やっぱり、王女かもよ。」
スリピチウス「いいんだよ。」
女主人「あんたは、ひとのためばかりに苦労する性分だね。」
スリピチウス「俺がかい?あんたにゃあ、俺の気持ちなんて、永遠にわかりっこないさ。」
女主人「どうなの?生き返って欲しいのかい?王子様を永久に失うことになってもかい?」
人魚姫「私は構いません。」
 女主人、ハンカチをとりだす。
女主人「じゃあ、目隠しをするよ。」
 魔法をかける女主人。
女主人「さあ、もういいよ。お立ち!」
 起き上がる王子。
王子「一体、なにがあつた?」

城内
大臣「王子、アントワン・デ・ラレン・プアトゥ・レフェーブル・サン・ゴタルドスキー様。」
王女「天にまします、我らが父、イエス・キリスト様。聖母マリア様。私の願いをお聞きいれいただき、ありがとうございます。」

王女「王子様。あなたが生き返ることを願って、ずっとお祈りしてましたのよ。」

王女「私の言ったことは全部うそ。お祈りなんてしてませんでした。ペンダントは、お二人に渡したのです。」

 出て行く王子。
王女「アントワン王子!アントワン王子!」

王子、海岸ヘ
王子「私の命を救ってくれたのは、王女ではないか。何を迷っているだ!」      
王子と王女の結婚式の準備が整っていく

涙する人魚姫

酒場
女主人「行くのかい?」
スリピチウス「ああ。」
女主人「王子が王女と結婚したら人魚姫は死ぬんだよ。」
 蝋燭を吹き消して。
女主人「いいのかい?」
スリピチウス「わかってるとも。何もかも。」
女主人「人魚姫にさよならは?」
スリピチウス「何のために。忙しくて、そんなヒマないね。俺にゃあ。」
 女主人、椅子をテーブルに上げながら。
女主人「これから、どうしようってんだい?」
スリピチウス「とにかく、人の役に立つことをするのさ。パン屋も床屋も役者も、みんな人の役にたっている。」
女主人「悲しくないのかい?」
スリピチウス「なんにも。」

夜の町
 花火があがる。
住民「めでたいぞ!お祝いだ!」

婚礼の祝い
女主人「みんな、よく見ておいで。あそこで踊ってるあの娘は、夜が明けたら死ぬんだよ!」
 酒樽のそばの住民たち。
住民1「人を馬鹿にするない。
住民2「縁起でもねえ!」
 人魚姫が踊る。
女主人「あの娘のために、命を投げ出そうって人はいないかね?」
漁師「そんな馬鹿はいねーよ。」

 人魚姫、王女に頭をさげる。
王女「あなたにもきっと、素敵な結婚相手を探してあげるわ。洋服屋!この娘のためにドレスを作ってちょうだい。誰よりも美しいドレスを、何着も。 さあ、今すぐに作ってちょうだい!」

 酒樽の女主人。
女主人「何がそんなに楽しいんだい?朝には死ぬんだよ。怖くはないのかい?」

太陽が昇ってくる
 王子の前に兜で顔を覆った謎の騎士が立ちはだかる。
王子「誰だ?」
謎の騎士「王子、アントワン・デ・ラレン・プアトゥ・レフェーブル・サン・ゴタルドスキーだ。」
王子「こいつは、ニセ者だ!」
 王子と謎の騎士の戦い。
 結局、謎の騎士が倒され、兜が剥がされる。息も絶え絶えのスリピチウスの顔が現れる。
王子「お前か、なぜ?」
スリピチウス「王子様、あなたが夢にまで見た人は、そこの娘だ。あの娘は、人魚姫だ。あなたと結ばれることを望んでいた人魚姫だ。だが、間もなく、この世から消えて行く。私の命を人魚姫に捧げる。永遠の魂を得て人々を見守ってくれるだろ。私もついに、役に立てたよ。」

人魚姫の姿が消える
 王子が人魚姫を探してさ迷う。
王女「アントワン王子。誰を捜してるの?」

ナレーション「人魚姫は、スリピチウスの死を見届けるように、この世から消えていきました。スリピチウスは、人魚姫のために自分の命を捧げたのです。人間の命を貰った人魚の魂は、いつまでもこの世に残ることができます。この世から消えていった人魚姫も、魂だけは、永遠にこの世に残り、姿はみえなくても、王子様や王女様、そしてその子供たちや孫たちと、いつまでも一緒にいるのです。」

箱馬車の中の少女とアンデルセン
アンデルセン「というわけで、人魚姫の魂は、何百年も私たちを見守ってくれている。人魚姫を見ることができたら、その人は幸せに暮らせる。そういうことだ。」
 箱馬車が去って行く。

ナレーション「これで、このお話は、終わりです。いつか、アンデルセンの童話を読むことがあったら、今日のこの人魚姫のお話も思い出してくださいね。」

エンド・マーク
ナレーション「弁士は、私、藤川修士でした。またお会い出来る日を楽しみにしています。さようなら!」

日本語版台本:西條 廉人
           藤川 修士 / 小林 寛昭
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