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無断転載を禁ず | -P21- 「惑星ソラリス」パンフレット(1977年6月18日発行)より転載 |
上げる)従ってこれらの情報は全然, あるいは殆ど,現実には即さないも のである」 ● ブラウン管(会議室) バートン「(腰かけたまま?伏目が ちに)“殆ど”というのはどの程度 ですか?」 ● ブラウン管(委員長の部屋) シェンノン「いや,最後まで聞いて 下さい.(委員会の結論を続けて読 む)なお,物理学博士メッセンジャ ー教授の特別意見を別記する。同教 授はバートンがもたらした報告が事 実に即しているかもしれないので, 充分研究する必要があると考えてい る.以上です」 ● ブラウン管〈会議室) バートン「(腰かけたまま)すべて, わたしはこの眼で見たんだ!」 ● ケルヴィンの部屋 ビデオの横に腰かけていたバート ンは立ち上がる。 メッセンジャー教授の声「この点で はわたしは……」 ● プラウン管(会議室) メッセンジャー教授「(ホールを歩 きながら)別の意見を持っています。 我々は偉大な発見の入日にいるので す.しかも我々の結論が,観察者が 学位を持っているかどうかという事 実に左右されるとは,わたしは思い ません。このパイロットのことを, そして彼の精神力や彼の観察の鋭さ を,羨ましく思っている研究者は一 人や二人ではないのです。そして更 に最後の情報から見ても,我々が研 究を打ち切る権利は全然ないと思わ れます」 ● プラウン管(委員長の部屋) シェンノン「(歩きまわりながら)メ ッセンジャー教授のお気持ちはわか りますし,おっしゃっていることも わかります。しかし,我々が通って 来た道を振り返ってみましょう.ソ ラリス研究はスタートした瞬問と同 じ場所に足踏みしているのです。こ こ何年間かの仕事は無駄でもありま した.いま,我々がソラリスについ て知っている事は,否定的な性格の ものであり,いかなる概念にも当て はめられないような,ばらばらな事 実の山のようなものです」 ● ケルヴィンの部屋 ブラウン管を見つめるクリス. クリス「いまだに我々は同じ状態に あるわけだ.ソラリス研究は退化し つつある」 メッセンジャー教授の声「しかし, ソラリス研究よりももっと重要なこ とを言っているのです。人間の認識 の限界について話しているのです」 ● ブラウン管(会議室) |
メッセンジャー教授「(発言を続け て)そのような限界を人為的に定め ることで,思考の無限性という考え 方に打撃を与え,前進する動きを妨 げ,後退する動きを助けることにな ると思われませんか?」 バートン「(腰かけたまま)ですが, もう一度お聞きします。“わたしが もたらした報告が殆ど事実に即さな い”というのは,どういうことです か? わたしはこの眼ですべて見た んです.“殆ど”というのはどうい う意味でしょうか?」 ● ブラウン管(委員長の部屋) シェンノン「(バートンに返答して) “殆ど”というのは,何か,ある実 際の現象が,あなたの幻覚を引き起 こしたに違いないという意味です. その……風のある時など,揺れる茂 みを生物と間違えることもあります よ.他の惑星のことですからね.だ からこれは何もあなたに失礼なこと を申しあげているのではないので す」 ● ブラウン管(会議室) バートン「(席に坐ったまま)わたし としてはメッセンジャー教授の特別 意見がどんな扱いを受けるか,知り たいのですが」 ● ブラウン管(委員長の部屋) 騒然とする学者達,退出し始める. シェンノン「(退出しながら)実際に はどうにもなりません.つまり,こ の点での研究はもう行なわれません. (声のする方に向かって)いま,行 きます!」 バートンの声「そのことについて, まだ申し上げたいことがあります」 ● スクリーン(会議室) 退出する学者達のざわめき. バートン「(席についたまま)委員会 はわたしを侮序したのではないし, わたしなど,ここでは問題じゃない です.委員会が侮犀したのは探険の 精神です.ですからわたしは発言し ます……」 ● ケルヴィンの部屋 バートン「(スイッチを切り,立ち 上がって)ま,そういうわけです。 今ではバートン報告を笑い話にして も,失礼にはならんというわけです よ」 アンナ「(立ち上がり,部屋の戸口 の方に歩きながら)ありがとう,パ ートン,長いおつきあいなのに,わ たし,あなたのことを何も知らなか ったわ。とても美男子だったわね」 バートン「ご冗談でしょう,どっち にしてもありがとうございます」 アンナ「(出て行こうとして,戸口 で入ってきた父親とがつかり)まあ! ごめんなさい」 |
父「(入って来て)クリス,おまえの 印象はどうかな?」 バートン「もし君が承知するなら, クリスと二人きりで話してみたいん だが,あたしは今回だけは馬鹿者扱 いされたくないんだ。下のプランコ のところで待っているから(と出て 行く)」 クリス「変な人だ」 父「そんなに言うもんじゃない.自 分でもきまり悪そうにしている。別 れを言うのも邪魔になると思ってる んだ」 壁にクリスの母の写真. 父「バートンはデリケートなんだ. お前に会いに来たんだから,自分の 仕事を大事だと考えているんだよ. 正直なところ,わたしはいま誰とも 会いたくないよ。お前ともしょっち ゅう話をする方ではないしな」 ● 一階の客間 窓の外を走る子供たち,クリスと 父,鳥寵が下がった窓の前で クリス「そう言ってもらうとうれし いです。もう最後の日ですが……」 父「最後の日だな.特に別れる時と なるとな,あとからいやな思いがす るもんだ.おばさんが来る。じゃ, クリス,昼から話そう。話したいこ とがある」 クリス「それじゃどうして今日,バ ートンを呼んだんです?」 アンナ「(部屋に入ってきて)お客さ まはどこに寝ていただきます? あ なたの隣ですか? それとも上の部 屋ですか?」 父「上の部屋がいい」 クリス「じゃ,わたしはブランコの ところに行きます(と去る)」 アンナ「そうすると……?」 父「わたしが行く.部屋で待ってて くれ.(椅子にかけながらクリスに) あのな,クリス!」 ● 庭 ガレージが見える。犬を連れてガ レージの方から逃げるように走って くるディーク. ● 馬のいるガレージ ● ガレージヘの道 アンナがディークを通れてガレー ジに近づく. アンナ「いったいどうしたの?」 ディーク「あそこに変なのがいる!」 アンナ「恐いの?」 ディーク「ガレージの中でこっちを 見てる」 アンナ「(ディークを引っ張って行 きながら)馬よ」 ディーク「いいよ,もう見たから」 アンナ「行きましょう!」 |
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