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無断転載を禁ず -P29- 「惑星ソラリス」パンフレット(1977年6月18日発行)より転載

自分の手を添えながら)クリス!」
クリス「何?」
ハリー「あなたを愛しているわ」
クリス「眠りなさい,眠りなさい」
ハリー「あたし,眠れないの.本当
にこれは眠りじゃないわ.でも,そ
れは何だか眠りのようで,まるであ
たしの頭の中だけじゃなくて,もっ
と逢か遠くまで――」
クリス「きっと,やはり眠りなんだ
よ」

● 図書室
 中央に大きな円形のテーブル.壁
際の台の上に本が雑然と積んである.
テーブルに開かれた本.その前で椅
子にかけているクリスとハリー.開
いた本を手にしたまま歩き廻るサル
トリウス.
サルトリウス「さてと,僕は祝われ
るご本人はもう来ないと思うよ」
クリス「どうして?」
サルトリウス「ひょっとするとスナ
ウトのところには <客> がいるんじ
ゃないかな?」
燭台の蝋燭が燃えている.テーブ
ルの前に,ハリーとクリス.立った
まま本に眼を通していたサルトリウ
スが,椅子にかける.スナウト,背
広のネクタイを整えながら入ってく
る.
スナウト「お! 皆揃ってるな!」
サルトリウス「(立ち上がりながら)
1時間半も遅刻だ」
 ハリーは燭台をテーブルに置く.
スナウト「(クリスに近づいて)何を
読んでるんだ?(クリスが見ていた
本を取り上げ)これはくだらん,く
だらんよ! (本の山を掻き廻しな
がら)どこだ?どこだ? これだ!
彼らは夜毎やってくるからな.だが
いつかは眠らなきゃならない.人が
眠れなくなったら,これは問題だ.
(別の本をクリスに渡して,傍のハ
リーの手に接吻し)しかし,読みた
まえ,わたしは少し興奮してるんだ」
クリス「(本を読み上げてくおれは,<
セニョール,一つだけ知っている…
….おれは眠っている時は恐怖も希
望も苦労も幸福も感じない.眠りを
発明した人に感謝しよう.これはす
べての人に共通の宝物であり,牧童
にも王様にも,馬鹿にも賢者にも平
等に同じ重さなのだ.ただ一つ困る
のは深い眠りだ――それは死ととて
も似ているそうだ〉」
スナウト「(グラスを手にしたまま
陪論して)<サンチョよ,いまだか
つて,おまえはこんな優雅な言葉を
言ったことがなかった〉」
サルトリウス「(グラスを手にした
まま)結構ですな.が,今度はわた
しにも言わせてくれ.わたしはスナ
ウトのため,彼の勇気のため,義務
を忘れたりしない優れた能力のため,
学間のため,そしてスナウトのため
に乾杯しようと思う!」
スナウト「学間のためか? 馬鹿馬
鹿しい! こんな状況では凡人も天
才も同じように無力だよ.我々はど
んな宇宙も征服したくないと言うべ
きなんだ.我々は地球をその限界ま
で広げたいと望んでいる.我々は別
の世界にどう対処したら良いのか分
らない.我々には別の世界は必要な
いんだ.我々には,そうだ――必要
なのは鏡だ! 我々は接触しようと
してあくせく奮闘しているが,どう
しても手がかりが見つからない.恐
れているが,自分には全く必要ない
的を目ざして闘志を燃やしている人
間の馬鹿げた立場に我々は置かれて
いるわけだ.人間に必要なのは人間
だ!ギバリャンのために! 彼を忘
れないために乾杯しよう! 彼は驚
いたに過ぎないかもしれないがな」
クリス「いや! ギバリャンは驚い
たんじゃないんですよ!(開かれた
本を自分の方に引き寄せて)もっと
恐ろしいことだってありますから.
彼はどうしようもなくなって死んだ.
彼はすべてこうしたことが自分だけ
に起こると考えたんです」
サルトリウス「何だって! 何のこ
とを言ってるんだ? そうした痛ま
しい異常は〈ドストエフスキーの心
理葛藤〉に過ぎないのだ.そう長く
は続かない」
 二人の話に聞き入るスナウト.
クリス「あなたはあんまり責任を取
りたくないんだ」
サルトリウス「僕は身のほどはわき
まえている.人間は自然を認識する
ために自然によって造られたんだ.
はてしなく真実をめざして前進すれ
ば,人間は真実を認識できるんだ
(眼鏡を持った手で厳しくテーブル
を叩き,そのはずみで眼鏡の玉がは
ずれる)他のことはすべて愚劣なん
だ.ところで,尊敬する皆さんに質
間しますがね.何のためにあなたが
たはソラリスに飛んで来たんです?」
スナウト「何のためとは,どういう
ことだ?」
サルトリウス「(クリス)にあなたは
仕事をしてますか? 失礼だが,昔
の奥さんとのロマンスのほかにあな
たは何も興味を持っていない.一日
中ベッドでごろごろして,あれこれ
考えごとをして,そんな方法で自分
の義務をはたしているわけですな?
あなたは現実的な感情を失ってしま
った.失礼だが,あなたは全く怠け
者だ!」
スナウト「やめろよ!(部屋を歩き
廻りながら)少しは,ましなことも
言えよ! ギバリャンのために飲も
う!」
サルトリウス「ギバリャンのためで
なく,人間のためにだ!」
クリス「あなたはギバリャンが人間
でないとでも言いたいのですか?」
スナウト「クリス, よしてくれ!
まだ口論したりないのか? 今日は
僕の誕生日なんだ.今日は僕の日だ
!」
ハリー「そのとおりだわ!」
 壁ぎわを歩くハリー.クリスに近
より,再び壁ぎわに戻る.
ハリー「(泣きながら)クリス・ケル
ヴィンはあなた方二人よりもずっと
一貫しているとわたしは思います.
ひどい状態の時でも彼は人間的です.
でも,あなた方はすべて自分に関係
ないような風をして,自分の〈客〉
を,そう,わたしたちを〈客〉と呼
びましたよね.わたしたちを何か外
部の邪魔者のように考えてるんです.
けれど〈客〉はあなた方自身なので
す.あなた方の良心なのです.クリ
スはわたしを愛しています.もしか
すると愛しているのじゃなくて,た
だわたしを傷つけないようにしてい
るのかもしれない.そうなんです.
人間としてわたしを…….そのこと
は問題ではないんです.なぜ愛して
いるのかは重要ではないんです.そ
れは人によって様々なんですから.
クリスは悪くない.彼は別に関係な
いのに,あなた方ときたら! あた
しはあなた方,皆を憎みます!」
サルトリウス「あなたにお願いした
い――」
ハリー「最後まで言わせて下さい!
――あたしはこれでも女です……」
 椅子に腰かけているクリス.
 サルトリウス,椅子から立ち上が
り,部屋を歩き廻る.
サルトリウス「あなたは女でも人間
でもない.大体あなたに理解力があ
るというのなら,もうそろそろ分っ
たらどうです! ハリーはいない,
彼女は死んだ.あなたはハリーの再
生に過ぎないんだ.機械的な再生な
んだ! コピーなんだ! 鋳型なの
だ!」
 泣いているハリー,水が入ったコ
ップを取るが,そのとき,燭台を床
に落とす.
ハリー「そう! そうかも知れませ
ん!でもあたしは人間になります.
感じることも,あたしはあなた方に
少しも劣ってはいません.もうあた
しは,クリスなしではいられない!
あたしは,クリスを愛しています!
あたしは人間です! あなた方は,

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