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無断転載を禁ず -P31- 「惑星ソラリス」パンフレット(1977年6月18日発行)より転載

言って…….あたしはあなたに,あ
なたに嫌われているんでしょう?
こんなあたしは,嫌なんでしょ?」
クリス「ハリー,違う.それは違
う!」
ハリー「嘘だわ……」
クリス「違うんだ!」
ハリー「嘘よ」
クリス「やめなさい」
ハリー「嘘よ」
 スナウト,自分の部屋から走り出
ようとしてドアに上衣を一度引っ掛
ける.廊下を走り去るが,反対側か
ら金属箱を手にして現われ,床に並
んで坐っているクリスとハリーの傍
を走り過じる.
クリス「やめなさい」
ハリー「嫌いに決まってるわ!」
クリス「何を言ってるんだ」
ハリー「あたしに触らないで!」
 ハリー,だんだん気をとり戻す.
● ソラリスの海
 変色し,波が渦まいている.
● クリスの部屋
 水をたたえた水差し.底にいろい
ろなものが沈んでいる.ケープを肩
にかけたまま,くずれるようにべッ
ドに身を投げるハリー.クリスも重
なるように横たわる.
ハリー「(泣き乍ら)好きよ」
クリス「ハリー,一体どうしたん
だ?」
ハリー「(泣いている)別に……」
クリス「(ハリーを抱き寄せて)僕は
地球へは帰らない.僕は君と一緒に
ステーションで暮らすよ」
ハリー「あのね,あたし恐いわ」
 夢でうなされているクリス.ハリ
ーの枕の上に彼女のケープがあるが,
ハリーはいない.汗ばみ,苦しそう
に呻くクリス.ハリーがベッドに現
われ,眠っている.やっと起き上が
ったクリスが,部屋を出て行く.

● 一階の廊下
 裸足で廊下に立ちつくすクリス.
その後姿.大儀そうに廊下を歩き,
床に落ちている絵を拾い上げ,眺め,
投げ捨てる.床に落ちる犬の絵.な
おも歩き続けるクリス.
● 二階の廊下
 廊下を歩いて行ったクリスは,窓
際に立っているスナウトに近づく.
スナウトがクリスに手を貸す.スナ
ウトに支えられながら,別の窓の前
に立ち止まって海を覗くクリス.
スナウト「海は活動を始めたようだ
な.これは君の脳電図が役に立った
んだ」
クリス「同情心を起こすと,我々は
ダメですな.苦しむと人生は暗く,
疑り深いものになっていくというが,
もしかすると,それは本当かもしれ
ない.(窓に手をかけ)しかし,僕は
賛成できない.そうだ,認められな
い……,我々の生活に必要がないも
のは,生活に有害だと言えるだろう
か? いや,そんなことはない,害
にはならないんだ.勿論だ.トルス
トイをわかっているかな? 彼の苦
悩は人類を愛することができないと
いうことにあった.そうだ…….あ
れからどれ位たったんだ? わたし
はどうしても分らないんだ…….助
けてくれ……」
● ソラリスの海の泡立つ海面
クリスの声「つまり僕は君を愛して
いる.だが,この愛は体験すること
はできるが,説明できないような感
情だ.観念としては説明できるがね.
失うかもしれないものを――自分と
か,女とか,祖国とかを愛するとか
ね.今日まで,人類とか地球とかま
では愛は届いていないんだ.何を言
っているかわかるか? スナウト,
我々は本当に僅かなものだ.たかだ
か何十億位じゃないか! もしかす
ると,我々がここにいるのは,人々
をそうした愛の根源として初めて実
感するためかもしれないんだな?」
● 一階の廊下
 クリス,ハリーとスナウトに支え
られて歩いて行く.
スナウト「熱があるようだな」
クリス「ギバリャンはどんな風に死
んだんだ? 君はこれまで話してく
れなかったじゃないか」
スナウト「話して聞かせるから.あ
とで……」
クリス「ギバリャンは恐ろしくて死
んだのではない…….彼は恥じて死
んだんだ! 恥のためだ!(スナウ
トとハリーに支えられたまま)これ
が人類を救う感情なのだ!」
● 地球(クリスの幻覚)
 夕暮れ.ケルヴィン家の客間.
● 鏡の間(クリスの幻覚)
 ベッドに横たわり,うわごとを言
うクリス.ベッドの傍に花瓶.
● クリスの部屋(ステーション)
 うわごとを言うクリス.クリスの
枕辺に寄り,傍に屈んで不安げに見
つめるハリー.
● クリスの部屋(クリスの幻覚)
 ケープを脱ぐハリー.同じケープ
を肩にかけたクリスの母.ハリーは
浴室に行く.窓際には別のハリーが
いる.花瓶の横を通りすぎる第三の
ハリー.椅子に腰かけたハリーの傍
をもう一人のハリーが通る.
● 地球(クリスの幻覚)
 ケルブィン家の寝室.ベッドから
起き上がったクリス,若い頃の母親
に近づき,彼女と抱き合う.
● 地球(クリスの幻覚)
 クリスの部屋.ステーションから
持ち帰った品々が置いてある.机の
上に花を差した小瓶,周りにお金や
品物が雑然と散らばっている.机の
横にクリスと母.
クリス「ママ,わたしは……わたし
は2時間遅れました」
「(本をめくりながら)知ってるわ.
どうだったの,道中は?」
クリス「無事です.少し疲れました
けど,まあ大したことはないです」
「(出て行こうとして)まあまあ!
あの人達も遅いわね.行って通れて
来ましょう」
クリス「あわてなくてもいいんです
よ……」
 ブラウン管の傍に立つクリスと母.
クリス「それがね,とても困った話
だが,僕はどうしてか……,お母さ
んの顔を全然覚えていないんです」
「顔色がさえないけれど.幸せな
のかい?」
クリス「何だかいまは,そういうこ
とは考えられませんね」
「それは困ったわね」
 ベッドに腰かけるクリス.
クリス「僕はいま,独りぼっちです」
「だけど,何のためにわたしたち
を困らせるの? おまえは何を待っ
ているの? どうして電話してくれ
なかったの? 何だか変な生活をし
てるようね.汚らしいこと! どこ
でそんなに汚れてきたの?(腕をと
って)これはどうしたの? こちら
へ来なさい! いま洗ってあげまし
ょう」
 水差しを運んできて,クリスの手
を洗う母.母,暗闇に去る.
クリス「(涙ながらに,母を探し求
める眼差しで)ああ,ママ!」
● クリスの部屋(ステーション)
 クリス,意識をとり戻す.
クリス「ハリー!」
 机の上のガラス製の湯沸しがたぎ
っている.スナウトが洋服のポケッ
トから封筒を取り出し,ベッドに横
たわるクリスの胸の上に置く.
スナウト「ええ,どうだ? もう大
丈夫か?」
クリス「ハリーはどこだ? これは
何だ?」
スナウト「もうハリーはいない.(眼
鏡をかけて手紙を読む)〈クリス,
あなたを裏切らなきゃならないのは
恐ろしい.でも,他にどうしようも
なかったのです.こうなるのがあた
したち二人にとって良かったのです.
あたしの方からこれはお願いしまし
た.誰も責めないでください.ハリ
ー〉(手紙の文面をクリスに示し)
彼女は,君のためにこうしたんだ」.

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