●クレジット・タイトル
バーの内部のモノクロ画面に黄文
字のクレジット・タイトルがかぶる。
バーの内部――奥の部屋からバー
に入ってきたマスターが、明りをつ
けて、カウンターのなかに入る。折
しも毛編みの帽子を被った教授が現
われ、窓際の丸テープルの足もとに
リュックを置き、カウンターヘ歩み
寄って何か注文すると、再ぴテーブ
ルに戻り、凭れかかるように立つ。
マスターがコーヒーをテーブルに運
んで来る。教授はコーヒーを飲み始
める。
●タイトル
"慣石が落ちたのか宇宙人が来たの
かわからない。とにかく、ある地域
に奇怪な現象が起きた。そこがゾー
ンだ。軍隊を派遣したが、かれらは
全減してしまった。それ以来、ゾー
ンは立入禁上になっている。手の打
ちようがないんだ…… ノーベル賞
受賞物理学者ウォーレス博士がライ
記者に語った言葉より"
●ストーカーの部屋
半ば開かれた両開きのドアから、
壁際中央に置かれたベットに向って
ズーム・イン
ベッドには娘をはさんでストーカ
ーと妻が寝ている。かすかに汽笛が
聞こえてくる。
ベットの傍の椅子の上には綿や水 |
を入れたコップが置いてある。列車
の近づく音と振動につれて、コップ
が静かにずり動く。
横になったまま、傍の妻や娘の寝
顔を見つめているストーカー。列車
の音が一段と高くなり、また静まる。
ストーカー、立ちあがると、ベッ
ドの背もたれの上から時計を取る。
ズボンを穿くと、忍ぴ足で部屋を出
て、ドアを両側から閉じる。閉めき
っていない両開きのドアの隙間から、
妻がベットから起きあがるのが見え
る。
●台所
ストーカー、ガス湯沸し器に点火
すると、顔を洗い始める。壁の電燈
がぱっと閃めいて、またすぐに消える。
●ストーカーの部屋の入口
部屋のドアの前で消毒器を手にし
た妻が、電燈のスイッチから手を離
して――、
妻(気持を抑えきれないように)「時
計を返して。また行っちゃうの?
約束したはずよ。信じてたのに。家
族はどうなるの? 子供のことを考
えて。あの子はあなたになつく暇も
ないわ。」
●台所
ストーカーは顔を洗っている。
妻の声「私たちに苦労ばっかりさせ
て。」
ストーカー(顔を上げながら)「子供 |
が目をさます。」
ストーカー、窓辺に歩み寄り、皿
を手にして、立ったまま何かを食べ
始める。
妻の声「帰るまで特ってろと言うの?
嘘つき。」
妻はストーカーの傍まで来ると、
必死になって訴える。
妻「仕事につくと言ったくせに。」
ストーカー「すぐに帰るさ。」
妻「今度捕まったら、当分出られな
いわよ。最低10年よ。その頃にはゾ
ーンも何もなくなってるわ。(泣き
ながら)私だって多分、生きちゃい
ないわよ。」
ストーカー(妻に背を向けて)「俺に
はどこだって牢獄だ。」
振り返り、出て行こうとするスト
ーカー。
妻(ストーカーに取りすがって)「離
さない。」
●ストーカーの部屋の入口
ストーカー、部屋から上衣を取っ
て、出て行く。
●台所
妻(立ちつくしたまま、涙ながらに)
「いいわ、ゾーンに行って死になさい。
あんたと結婚したのが間違いよ。だ
から呪われた子供が生れて――。私
には何の希望もないわ。」
妻、慟哭しながら傍の椅子に崩れ
折れ、そのまま床に倒れる。 |