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「ストーカー」(1981年10月31日発行)より転載
「ストーカー」採録シナリオ
クレジット・タイトル
 バーの内部のモノクロ画面に黄文
字のクレジット・タイトルがかぶる。
 バーの内部――奥の部屋からバー
に入ってきたマスターが、明りをつ
けて、カウンターのなかに入る。折
しも毛編みの帽子を被った教授が現
われ、窓際の丸テープルの足もとに
リュックを置き、カウンターヘ歩み
寄って何か注文すると、再ぴテーブ
ルに戻り、凭れかかるように立つ。
マスターがコーヒーをテーブルに運
んで来る。教授はコーヒーを飲み始
める。
タイトル
"慣石が落ちたのか宇宙人が来たの
かわからない。とにかく、ある地域
に奇怪な現象が起きた。そこがゾー
ンだ。軍隊を派遣したが、かれらは
全減してしまった。それ以来、ゾー
ンは立入禁上になっている。手の打
ちようがないんだ…… ノーベル賞
受賞物理学者ウォーレス博士がライ
記者に語った言葉より"
ストーカーの部屋
 半ば開かれた両開きのドアから、
壁際中央に置かれたベットに向って
ズーム・イン
 ベッドには娘をはさんでストーカ
ーと妻が寝ている。かすかに汽笛が
聞こえてくる。
 ベットの傍の椅子の上には綿や水
を入れたコップが置いてある。列車
の近づく音と振動につれて、コップ
が静かにずり動く。
 横になったまま、傍の妻や娘の寝
顔を見つめているストーカー。列車
の音が一段と高くなり、また静まる。
 ストーカー、立ちあがると、ベッ
ドの背もたれの上から時計を取る。
ズボンを穿くと、忍ぴ足で部屋を出
て、ドアを両側から閉じる。閉めき
っていない両開きのドアの隙間から、
妻がベットから起きあがるのが見え
る。
台所
 ストーカー、ガス湯沸し器に点火
すると、顔を洗い始める。壁の電燈
がぱっと閃めいて、またすぐに消える。
ストーカーの部屋の入口
 部屋のドアの前で消毒器を手にし
た妻が、電燈のスイッチから手を離
して――、
(気持を抑えきれないように)「時
計を返して。また行っちゃうの?
約束したはずよ。信じてたのに。家
族はどうなるの? 子供のことを考
えて。あの子はあなたになつく暇も
ないわ。」
台所
 ストーカーは顔を洗っている。
妻の声「私たちに苦労ばっかりさせ
て。」
ストーカー(顔を上げながら)「子供
が目をさます。」
 ストーカー、窓辺に歩み寄り、皿
を手にして、立ったまま何かを食べ
始める。
妻の声「帰るまで特ってろと言うの?
嘘つき。」
 妻はストーカーの傍まで来ると、
必死になって訴える。
「仕事につくと言ったくせに。」
ストーカー「すぐに帰るさ。」
「今度捕まったら、当分出られな
いわよ。最低10年よ。その頃にはゾ
ーンも何もなくなってるわ。(泣き
ながら)私だって多分、生きちゃい
ないわよ。」
ストーカー(妻に背を向けて)「俺に
はどこだって牢獄だ。」
 振り返り、出て行こうとするスト
ーカー。
(ストーカーに取りすがって)「離
さない。」
ストーカーの部屋の入口
 ストーカー、部屋から上衣を取っ
て、出て行く。
台所
(立ちつくしたまま、涙ながらに)
「いいわ、ゾーンに行って死になさい。
あんたと結婚したのが間違いよ。だ
から呪われた子供が生れて――。私
には何の希望もないわ。」
 妻、慟哭しながら傍の椅子に崩れ
折れ、そのまま床に倒れる。
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