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「ストーカー」(1981年10月31日発行)より転載
22 教授「なぜ踏みにじった?」
 ストーカー、堤に腰を下ろし、白
い布をいじっている。教授がストー
カーの方へ歩み寄る。
ストーカー「分りません。理由は教
えてくれませんでした。"いずれ分る"
と言って。ゾーンを憎んでいたよう
です。」
作家「そのジカプラスとは何者だね?」
ストーカー「"ヤマアラシ"という仇
名で、ゾーンをよく知っていました。
私も彼から、いろいろ教わったんで
す。当時は皆に"先生"と呼ばれて
いました。その後、彼に変ったこと
が起りましてね。(立ちあがりながら)
罰を受けたようです。(教授に自分の
バックと白い布を渡し)ナットをリ
ボンに結びつけて下さい。私はちょ
っと歩いて来ます。必要なもんで。
ここから動いちゃ、ダメですよ。」
 ストーカー、堤の斜面を下りて木
立のなかに姿を消す。
作家「どこへ行くんですか?」
教授「一人になりたいのさ。」
作家「私らだけ残して行くことはな
かろうに。」
教授「あの男は特別ですよ。」
作家「どうして?」
教授「ゾーンと心が通い合う人間で
すから。」
作家(教授の傍に近づき)「それにし
ては。蛇使いみたいな男を想像して
たんですがね。」
 教授は枕木に腰を下ろし、ナット
に白い布を結びつける。
教授「暗い過去を持つ男です。何度
も刑務所に入って痛めつけられて。
最近、生れた娘も気の毒にね、足が
ないらしい。」
作家「"ヤマアラシ"とか言う男は罰
を受けたとか……。何のことかごぞ
んじですか?」
教授「あの時、彼はゾーンから帰っ
て来ると、金持になったのです。大
金持にね。」
作家「それが罰ですか?」
教授「一週間後、首を吊りました。」
作家「どうして?」
教授(物音に気づき)「しっ!」
作家(坐ろうとして及び腰で)「何で
すか?」
 教授と作家、立ちあがって周囲を
見回わす。
ゾーン・発電所跡
 草叢にはくもの巣がからみついた
機械の部品が転がり、その向うには
見捨てられた発電所の建物がある。
ゾーン・草叢
 ストーカー、草叢に膝まずいて、
嘆息をもらす。やがて草蔭に顔をう
ずめ、大地にうつ伏せになる。そし
て静かにあおむけになり、額に手を
当てて何か瞑想している。
ゾーン・堤
 再び、枕木に腰を下ろし、ナット
に白い布を結びつける教授。作家は
教授の傍に立ち、ゾーンを眺めてい
る。
教授「20年ほど前、ここに隕石が落
ちたらしく、村が焼けました。隕石
を捜してもなかったんですよ。」
作家(教授を振り返りながら)「どう
言うことです?」
教授「それから人々が消え、連絡が
絶えました。隕石と言われたのが、
どうも違うらしいと言うことになっ
て。手始めに、鉄条網が張られたん
す。危険地域というわけでね。する
と変なもので、反対の噂が立ちまし
た。ゾーンに宝が埋っているような
話にね。それ以来警戒厳重ですよ。
バカ者が入るといかんと言うので。」
作家「隕石でないとすると何んです
か?」
教授「まだ分ってません。」
 教授、相変らず白い布でナットを
締めつけている。
作家の声「あなたのお考えは?」
教授「どうにでも考えられますから
な。同僚の考えでは人類へのメッセ
ージ、または贈物だそうです。」
 教授は立ちあがり、作家は腰を下
ろして考え込む。
作家「贈物ならありがたいが、何の
ためです?」
ストーカーの声「幸福のためでしょ
う。」
 ストーカー、倒れかかった電柱や
足もとに転がる何かの残骸を避けな
がら、斜面を上ってくる。
ストーカー「なぜか花の香りがあり
ません。お待たせいたしました。し
お時を測っていたんです。」
 ストーカーが作家と教授のもとヘ
寄ってくるや、犬の遠吠えに似た声
が聞こえる。
作家(立ちあがりながら)「何の声だ?」
教授「生きてたんじゃないか? こ
こに来たハイカーたちだよ。ゾーン
が出現した当時に。」
ストーカー「誰も残っていません。
さあ、時間だ。」
野原を横切る軌道車の線路
 タンク・ローリーが一台、放置さ
れたままである。
 ストーカーが、乗り棄てた軌道車
にエンシンをかけ、押し返す。無人
の軌道車は静かに線路を引き返し、
霧のなかに消える。
ゾーン・堤
 引き返して行く軌道車を見送る三
人。
作家(枕木に腰を下ろし)「どうやっ
て帰る?」
ストーカー「帰れないきまりです。」
 ストーカー、バックを肩にかけ、
教授はリュックを背負う。
作家「何だって?」
ストーカー「私に任せて下さい。道
筋は私が決めます。それると危険で
すよ。(眼で電性を指し示しながら)
まず、端の電桂を目標に、教授から
行って下さい。(作家の方を振り向き)
どうぞ、彼の跡について。」
 教授と作家、斜面を下りて行く。
ゾーン・草深い野原
 朽ち果て、錆びついたバスの残骸
が草に埋もれている。バスには人影
と思われる痕跡がある。ストーカー
と教授の姿がバスの窓ごしに見え、
続いて作家も現われる。
作家(バスに見入って)「すさまじい。
…一体、乗っていた人たちはどうな
ったんだ?」
 川を挟んで、バスの残骸とはちょ
うど反対側に、戦車が幾台も、やは
り苔むしたままである。ストーカー
と教授は対岸の戦車に眼を奪われて
いる。
ストーカー(振り返り)「知りません。
彼らがバスに乗る所は見ましたがね。
私が子供の時です?皆、威勢よくゾ
―ンヘ向って行きました。さあ、教
授。(作家を促し)あなたも。」
ゾーン・発電所跡
 森に囲まれた広い野面のロング・
ショット。ストーカーがナットを投
げ、それを作家が拾いに行く。教授
も作家に歩み寄り、二人のもとヘス
トーカーが走り寄ってくる。
 二人は揃って発電所の建物に注意
を集中する。
ストーカー「"部屋"はあの建物の中
です。行きましよう。」
作家「あそこへ行くんなら簡単なこ
とだ。」
ストーカー「そう見えるだけです。
大変ですよ。」
ストーカー、横を振り向いてナッ
トを投げる。
草叢の建物の土台石の側に落ちる
ナット。近寄って拾いあげる教授。
作家も口笛を吹きながら土台石の方
へ駆け寄ると、腰を屈めて、草をむ
しり取ろうとする。
ストーカーの声「やめなさい!」
 ストーカー、近くの土台石の上に
鉄棒があるのに気づき、思わず手に
握る。
ストーカー「草を抜かないで」
 ストーカーは教授の傍にいた作家
めがけて、興奮のあまり、鉄棒を投
げつける。
ストーカー「やめろ!」
作家(体を屈め、ストーカーを睨み
つけながら)「何するんだ!危ない
じゃないか!」
ストーカー(急ぎ、作家に近寄り)
「ゾーンは神聖な場所です。罰が当
りますよ。」
作家「鉄棒なんか投げるな。口で言
えば分る。」
ストーカー「言いましたよ。」
教授「あそこか?」
 三人が一斉に建物の方を見ている。

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