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「ストーカー」(1981年10月31日発行)より転載
ストーカー「ええ、しかし、一直線
には行けません。回り道をしないと。」
作家「何のためかね?」
ストーカー「まっすぐが一番近道と
は限りません。危険が大きくて。」
作家「生死にかかわるのか?」
教授「そうですよ。」
作家(土台石に足を載せ、靴のひも
を直しながら)「回り道は?」
ストーカー「危険が少ないんです。」
作家「そんなことは信じられない。」
教授「いいかね。」
作家「わざわざ遠回りするとはな。
一体、何が危険だというんだ?」
ストーカー「軽卒なことはしないで
下さいよ。」
作家(ポケットから酒壜を取り出し
ながら)「リボンつきのナットに何が
分る? まっすぐ行くぞ。」
教授「まあ、落着きなさい。」
ストーカー(酒壜を作家から取りあ
げ)「それを。」
教授と作家、ストーカーが壜の中
味を明けるのを見ている。
ストーカー「風が出てきた。草が揺
れてるでしょう。」
 ストーカー、空になった酒堆を土
台石に置く。
 思い詰めたような作家の顔のクロ
ーズ・アップ。
作家「そうか、俺は本当に怒ったぞ。」
教授の声「どうします?」
 立ち尽している作家を促すように、
教授が先に立って歩き出す。ストー
カーが跡を追う。
ストーカー「待ちなさい。」
作家「さわるな。」
ストーカー「それなら教授に証人に
なって頂きます。私が止めても、ま
っすぐ行きたいんですね?」
作家「そうだ、文句あるか?」
ストーカー「ありません。どうぞ。」
 作家が一人、発電所の方へ歩き出
す。
ストーカー「幸運を祈ります。もし、
何かに気づいたり、何か特別なもの
を感じたりしたら、すぐ戻っていら
っしゃい。」
作家(振り返りながら)「鉄棒なんか
投げるなよ。」
 野原をおそるおそる建物へと近寄
って行く作家、一瞬、後を振り返っ
てストーカーを見る。
 大木の側まで来て立ち止まる作家。
草叢を風がそよぎ、建物の前は蕭然
とした寡囲気に包まれている。
人の声「止まれ! 動くな。」
 ストーカーと教授、じっとして作
家の行く手を注視している。
ストーカー「何だね?」
教授「なぜ止めたんです?」
ストーカー(傍の土台石に上って、
教授を見下ろしながら)「君じゃなか
ったのか?」
教授「何です?」
 いったん、建物の直前にまで達し
た作家、ストーカーと教授のもとヘ
息せき切りながら、取って返して来
て、傍の土台石に腰を下ろす。
作家「なぜ、止めた?」
ストーカー「私じゃありません。」
作家「じゃ誰だ? (教授に)あんた
か? 誰だろう?」
教授「うまいね。進むのは恐ろしい
し、戻るのは気がひける。そこで変
な声を出して行かずにすませたな。」
作家「何だと?」
ストーカー「やめなさい。」
作家(ストーカーに恨めしげに)「な
ぜ、酒を捨てた?」
ストーカー(ヒステリックに体を震
わせながら)「黙んなさい。」
 ストーカーの不安げな、だが壮重
な面持ちのクローズ・アップ
ストーカー(時折、二人の方を振り
返りながら)「ゾーンは…… いわば
複雑な罠ですよ。その罠にかかれば
命がない。無人の時は知りませんが、
人が入って来ると、ゾーンは活動を
始めます。古い罠が消えて、新しい
罠が生れ、道だった所が通れなくな
る。何でもなく見えた原っばが混乱
の渦に変る。本当です。ゾーンは気
まぐれのようですが、実は私たちの
精神状態の反映です。私は、ここで
苦しむ人たちを何度も見ました。目
的地の前で死んだ人も。でも、すべ
て自分次第なのです。」
作家の声「善人を通して、悪人を殺
すのか?」
ストーカー「よく分りませんが、ゾ
ーンは絶望した人間を通すように思
えます。善悪に関係なく、不幸な者
を……。不幸な者でも無茶をすると
ダメです。あなたは警告を受けたの
です。」
 教授、リュックを肩から下ろし、
土台石に腰かける。
教授「私は、ここで待とう。行って
きなさい。幸福を求めて。」
ストーカーの声「いけません。」
教授「食べものも水も持っている。」
ストーカーの声「動かないと死にま
すよ。」
教授(ストーカーの方へ振り向き)
「それに?」
ストーカーの声「それに同じ道は戻
りません。」
教授「動きたくないな。」
ストーカーの声「では帰りましょう。
料金はお返しします。手間賃を少し
差引きますがね。」
作家「どうします?」
 作家が後を振り返ると、既に辺り
は白い霧がたちこめ、建物の輪郭も
はっきり見えない。
 教授は立ちあがり、再びリュック
を背負う。
教授「進もう。ナットを投げてくれ。」
 ストーカー、二人の近くまで来る
と、ナットを投げる。
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