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「ストーカー」(1981年10月31日発行)より転載
すか?」
作家(相変らず窓際で)「あんたは全
人類のために、何かしでかそうと思
ってるね。おどろかんよ。人類なん
てどうなっても構わんが、あんたは
何もできん。せいぜい、ノーベル賞
を貫うくらいさ。どうせ、あんたが
思ってるようには、何一つ行くはず
はないんだ。くだらん。望んだもの
と全く違うものが出てくるよ。」
ストーカー「どうして…」
 作家が傍の壁のナイフ・スイッチ
を入れると、明りがパッと閃めく。
作家「電話と…電気か…。(窓辺の
何かを手にして)ほう、珍しいものが
ある。どうして、こんな物が。」
ストーカー(二人を促すように)「行
きましょう。暗くなる前に "部屋"
へ入らないと」
 教授がまづ、先に立って部屋を出
る。ストーカーもつづいて部屋の戸
口まで出てくる。
作家(窓辺を離れて歩き出す)「そう
だったか。詩の朗読やら、遠回りや
ら、すべて許しを乞う形式だったん
だな。分るよ。(部屋の外に出ると、
手に持っていた鋼のいばらの冠を被
って)同情はできるがね。いい気に
なるな。俺は許さんぞ。」
ストーカー(戸口に凭れて)「止めな
さい。」
ゾーン・電話のある部屋の前
 下の方を見ている教授の顔のクロ
ーズ・アップ。犬が鼻を鳴らす音が
問こえる。
ゾーン・電話のある部屋の傍
 窓の近くの床に黒い犬が横たわっ
て、鼻を鳴らしている。
 窓の揺れ動く鎧扉を通して光が洩
れると、抱き合ったままの二体の骸
が挨にまみれて片隅に放置されてい
るのが見える。
ストーカーの声「教授、こちらです。」
ゾーン・電話のある部屋の前
 窓の下にある骸を見ていた教授、
ストーカーと作家が立っている所ま
で歩み寄る。
 ストーカーは "部屋" の前まで来
ると、両膝をついて、崩れるように
坐りこむ。その様子を見ていた教授
と作家も静かに"部屋"の方へ近づく。
ストーカー「ちょっと待って下さい」
作家「別に急いじゃおらん。」
ストーカー「お怒りでしょうが、言
わせて下さい。」
ゾーン・"部屋"の前
 "部屋" との境界には何の造作もな
く、なかは水びたしである。
ストーカー、立ちあがると、"部屋"
を熟視しながら、緊張した面持で−
ストーカー「今、ここが入口です…。
最も重大な瞬問ですよ。胸に秘めた
夢が、この部屋に入れば叶えられる
のです。最も切実な望みだけです。
(後を振り向き、二人の方へ歩み寄
って)言う必要はありません。ただ、
精神を集中して、すべてを思いだし
て下さい。人は過去を思う時、より
善良になります。("部屋"の前へ立
ち戻り、額に汗をにじませながら、
深刻に)いいですね? 逃わず、信
じることです。さあ、どうぞ。どな
たから?(作家に)あなた?」
 作家の無表情な顔、クローズ・ア
ップ。
作家(きっばりと)「いや、俺はご免
だ。」
 作家、壁際へ歩いて行く。
ストーカーの声「ご心配なく、すぐ
に終りますから。」
作家(コンクリートの壁に凭れ)「す
ぐだと? そうは思えん。それに過
去を回想したって、善良にはなるま
い。(壁を離れ、足もとの何かを拾う
が投げ捨てながら)こんなことをし
て恥ずかしいと思わんか?卑屈にふ
るまったり、鼻水たらして祈ったり。」
 作家もストーカーと教授の方へ近
づき、三人は揃って、"部屋"の前に
いる。
ストーカー「そんなこと、自意識過
剰ですよ。心の準備ができてないん
でしょう。分ります。(教授に)あな
たが先に。」
教授(1、2歩、前へ進み出て)
「よし。」
 教授は一度、後へ退り、リュック
から筒状の爆弾を取り出して持って
来る。
作家「出たぞ。われらが教授の大発
明。インスタント精神分折メーター
だな。」
教授「これは爆弾だ。」
作家「何だって? ご冗談を。」
教授「爆弾だよ。20キロトンの…」
作家「なぜ?」
 教授、しゃがみこんで爆弾の安全
装置をはずす。
 爆弾のスイッチを入れている教授
の手のクローズ・アップ。
教授、坐りこんだままで話を続ける。
教授「自家製だ。友達と作った。か
つての同僚たちと。ここは誰のプラ
スにもならない。だが悪い奴に利用
されるといけないから、これを作っ
たんだ。だが、その後、皆の意見が変
ってね。ひょっとして奇蹟かもしれ
ないし、希望を残しておこうと言う
ことになった。それで友人たちは爆
弾を隠したが、私が見つけ出したの
さ。(一瞬、笑みを浮かべ)破壊する
のが本当だと思ってね。これでも、
私は偏執狂じゃないつもりだが、あ
らゆる無頼の徒にこの病巣が開放さ
れている間は、眠りも安らぎもない。
(考えこみながら、作家を振り向き)
それともゾーンが自衛してくれるか
ね。」
 教授を見つめている作家。傍をス
トーカーがす早く通り過ぎる。
作家「あんたも苦労性だな。」
 教授は爆弾を手にしたまま立ちあ
がると、ちょっと作家の方を覗って
から、"部屋"の前へ行く。
 教授の一挙一動を注視していたス
トーカー、突然、教授に飛びかかり、
爆弾を取りあげようとする。
ストーカー「よこしなさい。」
 ストーカーと教授、縺れ合いなが
ら倒れる。作家、二人を引き分ける
ように飛び掛かり、ストーカーを押
し倒す。
教授(起きあがり、作家の方を見な
がら)「乱暴はよしたまえ。」
 ストーカー、立ちあがって再び、
教授に組みつく。作家がなお激しく、
ストーカーを水溜りに突き飛ばす。
作家「何だ!偽善者ぶりやがって」
 ストーカー、水溜りから起きあが
り、泣きながら訴える。
ストーカー「どうして私を殴るんで
す。あなたの希望が破壊されるんで
すよ。」
 作家は興奮してなお、ストーカー
に殴りかかり、突き飛ばす。起きあ
がると手で口もとを拭い、むせびな
がら話し始めるストーカーの顔のク
ローズ・アップ。
ストーカー「世間に希望は残されて
ません。絶望した時に来られる場所
は、ここだけなんです。あなた方も
来た。(再び教授に向って行こうとす
る)どうして破壊するんですか?」
教授は"部屋"の前に膝まづいたまま、
じっとしている。
作家(しつこく、ストーカーを突き
離し)「もういい、黙ってろ。貴様の
正体は読めてるんだ。親切ごかしや
がって。他人の不幸で食ってる。(怒
りと興奮でけわしい表情を浮かベ)
楽しんでいやがるんだ。ここでは貴
様は王だし、神だからな。汚らわしい
偽善者め。他人の命を玩びやがって。
お前らストーカーは部屋に入らんそ
うだな。」
 教授がおもむろに立ちあがる。
作家(ストーカーを振り返って)「当
然だ。秘密の権力を楽しんでるから
だ。そうだろう。」
ゾーン・水溜リ
 水溜りに膝をついたまま、涙と血
と水に汚れた顔で、むせびながら訴
えるように話すストーカー。
ストーカー「それは違う。違います。
(手で涙を拭い)ストーカーは利得
を目的にしてはならないのです。許
されないんですよ。私は確かにろく
でなしでさ。世間では何もできませ
ん。妻も幸せにできず、友達もあり
ません。ただ私には、ここがある。
外には何もない。ここだけです。ゾ
ーンの中だけに私の幸福も自由も尊
厳も全部あるんです。私と同じよう
に痛めつけられた人たちを、ここに
連れてきて助けることもできます。
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