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「火の馬」(1991年4月26日発行)より転載
白 痴「ベェー!こら、子僧奴!
ベェー!羊なんかおらんぞ、羊なん
かおらんぞ。ベェー!羊は死んでし
まった」
 母は教会の入口に膝まずいてい
る。
 白痴がイワンコに近づくのを見て
叫ぶ。
教会の中
パリーチユクの妻「イワンコ!イワ
ンコ!こっちに来なさい。こっちに
来なさい」
 母は息子を抱く。
パリーチユクの妻「見てはいけな
い。あれは気狂いだから。見てはい
けないよ」
 教会で礼拝が始まる。パリーチュ
チカとイワンコが人の間を進んで行
く。厚い聖書の前で止る。
 パリーチュチカ、十字を切る。イ
ワンコ、聖書を拡げ、本の十字架を
見ようとして手に取る。母は、イワ
ンコから十字架を取り、それをイワ
ンコに接吻させて、書物を開じ、十
字架をもとの場所に置く。
 イワンコが更に前に進もうとする
と一人の少女が立ちふさがって、イ
ワンコを突く。この娘は、仲の悪い
グチェニュク家の娘のマリーチカで
ある。
 イワンコはその娘を避けて父の方
に行く。
 礼拝をしている人達の間を教会の
番人が皿を持って通って行く。
 パリーチュチカは皿に小銭を投げ
入れ、十字を切る。そしてグチェ
ニュクの女におじぎをして挨拶をす
る。
パリーチュクの妻「イエスに栄光あ
れ!」
 グチェニュクの女は、あざ笑いを
浮かべて見向きもせず、番人に挨拶
する。
グチェニュクの妻「イエスに栄光あ
れ!」
番 人「永久に!」
 番人、銀の鈴をならしながら先に
進む。群集が小銭を投げる。
 イワンコとパリーチュク、小銭を
投げる。
 壁には、イコンが掛けられ、怪物
のような像が描かれている。
イワンコ(イコンを見上げながら)
「お父さん、これ悪魔?」
パリーチュク「イワンコよ、教会に
は悪魔もいないし、サタンもいな
い。人々の中にはサタンがいる。ほ
ら、あれを見ろ。あの男は神様にお
金を寄附しているが、貧乏人からは
魂を奪ってしまうのだ」
 グチェニュクは大きな銀貨を取り
出し、これ見よがしに皿に投げ入れ
る。
 パリーチュク、憎々しげに笑う。
 二人のグツール人が目を見交わ
し、グチェニュクとお金を見て、お
どろいたように肩をすぼめる。
 グチェニュクはイコンの方に目を
やり、十字架を切ろうとするが、
人々の笑い声に気づき、パリーチュ
クに向かって拳を振りあげる。
 グチェニュクの妻がパリーチュク
の妻につっかかる。
グチェニュクの妻「あんたたちは乞
食だ!教会のまわりで物乞いしてい
ればいい。教会の中に来ることはな
い」
 夫と連れだち、なお怒鳴り続けて
出口の方に行く。
教会の外
グチェニュク「構うもんか。あの野
郎、出て来やがれ」
 パリーチュクが一生懸命にグチェ
ニュクの方に行こうとするのを妻が
止める。
パリーチュクの妻「ペトリク、止め
なさい。ここは聖域だから。ペトリ
ク」
パリーチュク「放なせ」
パリーチュクの妻「ペトリク、よし
なさい。皆さん、助けて下さい。ど
うしましょう、神様」
 多勢の人。グチェニュクは斧を手
にして早足に歩く。妻があとを追
う。
グチェニュクの妻「乞食のくせに、
けしからん奴ども、こらしめてや
る」
グチェニュク「殺してやる」
グチェニュクの妻「仕返ししてや
れ」
グチェニュク「あいつを殺してや
る」
グチェニュクの妻「我々の種族を侮
辱した。早く、やっつけろ」
グチェニュク「お前は、わしの側を
離れよ。おれはちゃんとわかっとる
んだ」
グチェニュクの妻「仕返しをするん
だ」
グチェニュク「あわれな乞食どもが」
 グチェニュク、立ち止まってパ
リーチュクを待つ。
 パリーチュクの妻が斧を手にした
主人をなだめている。
パリーチュクの妻「ペトリク、止し
なさい。あいつら悪い奴だから」
パリーチュク「アンナ。やらなきゃ
いかん。アンナ」
パリーチュクの妻「ペトリク、おね
がい」
パリーチユク「やらにゃ、いかん」
パリーチュクの妻「おねがいだから」
パリーチュク「あいつは、わしを侮
辱した」
 グチェニュクの妻はパリーチュク
の妻の着物を掴んで棒を振りあげ
る。
パリーチュクの妻「悪魔め!」
パリーチュク「サタン奴が」
グチェニュクの方に向かうパリー
チュク。
パリーチュクの妻「ペトリク、おね
がい。たった独りの息子のイワンコ
のために」
 グチェニュクがふり上げた斧が打
ち下ろされる。
パリーチュクの妻「アーアーアー」
 画面いっぱいに赤い血が流れ、火
の馬となって空に飛んで行く。
 イワンコが群集の中を人を探しな
がら走り抜ける。
イワンコ「ママ!」
グチェニュクの妻「マリーチカ」
 鈴をつけたジプシーが走る。
 妻に向かって叫ぶグチェニュクの
声がきこえる。
グチェニュク「娘を早く橇に乗せ
ろ」
グチェニュクの妻「マリーチカ」
マリチカの声「ママ!」
グチェニュクの妻「お前、何処なの
!」
マリーチカ「ママ!」
 イワンコがマリーチカの方に走り
寄って、顔を強くなぐる。
グチェニュクの妻「マリーチカ!」
雪の河畔
 雪景色のチェレモシ河畔をマリー
チカが走る。イワンコがそのあとを
追う。先廻りして、彼女の道をふさ
ぎ、リボンを奪い取る。女の子は、
それを取り返そうとするが、イワン
コはリボンを河に投げ捨てる。
 マリーチカはやっとのことで涙を
こらえながら、
マリーチカ「平気よ、……私まだ他
に持っているのよ、 もっと良いの
を。ママが私に新しいスカートの生
地や模様のついた靴下を買ってくれ
たの。私、きれいな着物を着てお嬢
さんになるの」
イワンコ「僕、笛が吹けるんだ」
 イワンコ、笛を出して吹く。
マリーチカ「あんた、なんでぶった
りするの?」
イワンコ「なんで、君は、うちの荷
車のそばに立ってたんだ?」
マリーチカ「なんで、あんたのお父
さんは喧嘩するの」
イワンコ「最初に手を出したのは、
こっちじゃない」
マリーチカ「あんたのお父さんよ」
(8)
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