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「火の馬」(1991年4月26日発行)より転載 |
実をたべるかい」 ヒムカ、す早く、マリーチカのお 腹に手をあてる。 ヒムカ「ここで、うごめいているの は何だね、ハ、ハ、ハ、ハ」 マリーチカ、恥ずかしさのあまり 顔をふさいで走り去る。 ●羊を放牧する丘 タイトル 「ポローニナ」 牧夫の呼び声「オオ、オー、オー、 オー」 樹木に寄生する地衣類の植物 ミーコが背に枯枝の束をかついで 荒涼とした草地を行く。 枯れた切株に出来た地紋。 ポローニナを行くミーコ。 古い羊の鈴、苔、砂に埋まった羊 の角、水面に透けて見える古いグ ツールのパイプ。 ミーコは枯枝を背負ってなお、歩 き続け、十字架に近づく。何か叫ぼ うとするが、おしで物が言えない。 枯枝をすてて、その上に坐り、せき 込む。 ポローニナの草原 牧夫達がトレムビータを吹く。そ して春の近ずいた事を告げる。 イワンは花飾りを帽子につけて、 珍しげにあたりを見まわしている。 牧夫達が羊を追う。 親 方「家畜をこちらに追い寄せて いるのだ……神のお助けがあれば、 秋には家畜を皆に戻すのだ」 親方、注意深くイワンを見る。 親 方「若いの、どこの者だ?」 イワン、帽子を脱いで、 イワン「ピヨートル・パリーチュク の息子、クリボリーブニから仕事を 探しに来ました。雇って下さい。言 われた事は何でもやります」 牧夫達が跪いて祈りをしている。 ●羊飼いの小屋の中 堀立小屋で牧夫達はとど松の幹を けずっている。 女が手でとうもろこしをむいてい る。 小屋の中、火のそばに牧夫達、風 が桶を吹きころがす。 枯枝をかついだミーコが入って来 て、床に枝をおろす。 手で大釜を持ち上げる。板の上に 出来立てのとうもろこし粥。 雷鳴がとどろき、雨が吹き注ぐ。 牧夫達、火のそばで着物を乾かして いる。 手で牛乳の中のチーズの塊りを取 り出している。 ●羊飼いの小屋の中、夜 堀立小屋の中に親方、イワン、 |
ミーコ。 おしのミーコが何か言おうとし て、ジェスチュアで表現している。 親 方「どうしてお前は結婚しない のだと風が黒い山に尋ねると、黒い 山が答える。緑のポローニナが私の ところに来てくれないのだ」 ミーコ「ア、ア」 親 方「そして、いつまでもいつま でも、じっと立っている。美しさに 見とれているが結婚出来ないのだ。 風は、ただ彼等に歌を運んでいる」 親方は話しをやめ、桶からチーズ の塊を取り出して、牛乳で洗ってい る。 イワンは立ち上がって小屋を出 る。 ミーコは、親方に、イワンの方を 指して「彼は独り者か」と尋ねてい るような身振りをする。 親 方「知らないね」 ●夜 イワンは外に出ると、草の上に横 になる。 空には星がキラキラと輝いてい る。 イワンはじっと目を見開いていた が、やがて静かに目を開じる。 イワン「山よ、お前は何故結婚しな いのだ」 ●夜空に輝く星 乾草の束の上に寝て空を見ている マリーチカ、空には星がまばたいて いる。 ●霧の深い森の中 マリーチカは垣を越えて、草原を 歩く。 霧にかすむ山道を、四、五人の男 が羊を追って木立の中を行く。 牧 夫「さあ、さあ、それ、それ、 だめじゃないか……」 老いた牧夫が、銃を上に向けて、 発砲する。 牧 夫「これ、これ、さあ、だめ じゃないか…(羊を追いながら)そ れ、それ!」 マリーチカが森の中で、じっと耳 をすます。更に歩き続ける。空には 星がまたたいている。 ●草 原 霧がポローニナに流れて来る。 ミーコがたいまつを振りまわしな がら、何か叫んでいる。 イワンが頭をもたげて、耳をすま す。 トレムビータの音が聞こえる。 親方は不安気に、あちこちを見回 しながら叫び声をあげる。 親 方「オーイ、」 ●霧の深い森の中 |
林の中をさ逃うマリーチカ。あっ ちに走ったり、こっちに走ったりす る。 空には星がきらめいている。 マリーチカは、あたりを見回しな がら星の輝きに引かれるように林の 中を走る。止まったと思うと、又、 走り出す。 そしてマリーチカ、霧を透して崖 から羊が流れに落ちるのを見る。 ●草 原 二人のグツール人がトレムビータ を高く上げて鳴らす。イワンは、そ れを止めて、じっと耳をすます。 ●崖 マリーチカが急流の崖を伝って小 羊に近づき、そっと小羊を抱き寄せ る。 マリーチカ「イーワ!」 足がすべる。 マリーチカの足もとの石が崩れ落 ちる。 急流に呑まれた小羊が岸に打ち上 げられる。マリーチカがゆっくりと 流れに吸い込まれる。 星がまたたいている。 マリーチカ、一瞬、波から頭を出 すが、やがて水中に没してしまう。 崖の上では牧夫が二人、不安そう な顔をしている。その中の一人が何 か叫ぶ。 ●堀立小屋の前 白馬に乗ったグツール人が一人、 丘の上に現れる。牧夫達が大をつ れ、殺した熊を運んでいる。 堀立小屋のそばには人が集まり、 熊の皮を高々と引張り上げる。 話 声「考えて見りゃ、あんな若い 女が、あんな死に方をしてなあ… …」 話 声「どこの女だ?」 「グチェニュクの娘だ」 「何時のことだ」 「今日…霧が……夜中に… …」 「イワンは」 「知らない……」 「知らない……あそこにイワ ンが……」 「しゃべるな……」 牧夫は犬に餌を与えている。 若者が二人、女をからかってい る。 人が集まって何やら話し合ってい る。 イワンは会話に聴き入る。不安そ うな顔で、皆の方に近ずく。 イワン「ごきげんよう」 人々は黙ってしまう。一人のグ ツールが帽子を脱ぐ。 ミーコが枯枝の束をかついで側を |
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