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「火の馬」(1991年4月26日発行)より転載
通って行く。
 イワンがミーコを引き止めるよう
に声をかける。
イワン「お前だけでも、本当のこと
を言ってくれ」
 イワンがまわりを見まわす。
イワン「谷の方では何かあったの
か?」
 ミーコが小屋の壁に枯枝の束をた
てかける。
イワン「ミーコ」
 ミーコ、しきりに河の方角を指差
す。
ミーコ「工、工、工、オ、オ、オ」
 イワン、とど松の林の中を走って
河辺に降りて行く。
たいまつの火が点減する河畔
 たいまつを手にした人達が、チェ
レモシ河に沿ってあちこち歩きま
わっている。誰かを探している。
 祈りの声が聞こえてくる。
祈りの声「マリーチカ、マリーチ
カ、汝は若くして溺死せり」
 岸辺にイワン、走り寄る。他人の
たいまつを取りあげて河に入る。
 グチェニュクの妻が斜面を河に
向って走リ下りる。
 彼女を女達が止める。
グチェニュクの妻「うちの娘を探し
ているのです」
グチェニュク「待てよ、あそこに…
…待てよ」
 イワン、河の中に入っていく。岸
辺を走る人影。
河を下る筏
 河を筏が下っていく。イワンがフ
ラフラしながら乗り移る。よろめき
ながらたいまつを河の中に投げすて
る。
 号泣しながら濡れた筏の上に倒
れ、悲しみにもだえる。
流れがおだやかになった河畔、朝
 筏の上で老いたグツール人がフロ
ヤール(民族楽器)を吹く。イワン
立ち上がる。
 岸では女達がマリーチカの屍に頭
を垂れている。
女の声「お前は何と言う死にざまを
……」
 イワン、筏をつたって走る。
女の声「何でお前さんは、無駄死を
してあの世に行ってしまった」
 イワンがチェレモシ河の急流に沿
って浅瀬を歩き、マリーチカの亡骸
の置かれた河岸に近づく。
女の声「おお、可愛い娘よ、若くて
まだ、これからだと言うのに、この
世を捨てたりして…」
 イワン、岸に上る。
女の声「とんでもない死に方をした
もんで、可愛そうに……」
 イワン、岸辺の岩に腰を下ろす。
人々は立ち去り始める。
 イワン、横たわるマリーチカを
じっと見ている。
丘の上にたつ十字架
 丘の上でイワンが墓に十年架を立
てている。
 やがて斜面を下りて岩の上に腰を
下ろす。何か気配を感じて立ち上が
り、その方を見ると、十字架のそば
に鹿が立っている。イワンが近づい
て掴まえようとすると、鹿は逃げ
る。
 イワン、ひとり残る。

タイトル「人々は彼が大きな悲しみ
     のあまり死んだと思った
     …そして少女たちは彼ら
     の愛を歌にしたのであ
     る」

タイトル「孤 独」

羊飼いの小屋
 風が家畜小屋の扉をたたいてい
る。その扉の向うに牧夫達が見え
る。
「ミコーラ、ドミトリー、さあ行
こう」
「クリヴォニ・ポーレのおれの家
に来てくれ。おれ、結婚するんだ」
イワンの声「大きに有難う。ひまが
出来たら必ず行きます」
「ドミトリー、夜は家に来てく
れ」
「さ、みんな行こうか」
イワン「では、お気をつけて、ご主人
様、さようなら」
「イワン、火を消さないで、ひと
りで消えるはずだから」
イワン「わかってます。有難うござ
います」
堀立小屋の外
 庭の外塀の向こうから二人の女の
声が聞こえる。
「エフドーシカ、元気?」
「元気よ、あんたは元気?」
「エフドーシカ、あんた聞いた?
パリーチュクのこと?」
「どうしたの?」
「イワンコを見てごらんよ、あそ
この壁のところに立ってるよ」
「あれがそうなの?」
「イワンコよ」
「まあ、おどろいた」
「とても美男子だったのに、今
じゃ可愛そうに、ヒゲぼうぼう、破
れた着物を着て、きたならしくし
て、年寄りみたい」
「まあ、ひどい」
「ごらんなさいよ。あそこには、
おかみさんがいたのにね。家はすっ
かり壊れてしまって、凍りついてい
るし、父親は教会で殺されてしまっ
た。身内の者は一人もいなくなって
しまったのよ」
 羊につけていた鈴をイワンが壁に
かけ、塀の外に出て行く。
 二人の女が話しつづける。
「私、きいたけど、あの人が家畜
を売ったとき、すっかり売り払っ
て、羊が一匹だけ……」
 イワンは戸口に丸太を打ちつけ、
袋を持ち、しばらく立っていたが、
やがて去って行く。
 イワンに気がついて女達は小さい
声でささやき合う。
「すっかり落ちぶれ果てて、可愛
そうに」
「あんなに立派な若者だったの
に、今じゃ……」
ユダヤ人墓地
 雪に埋まった墓地でイワンが墓穴
を掘っている。
 二人の男の声が聞こえる。
「お元気ですか?」
「ああ元気だ、君も元気かね、君
は何の用事で?そしてどこから来た
のかね?」
「クートィから来たんです。あそ
このアルメニヤの商人のところで、
カワウソとテンの皮を売って、コ
ショウを買って、そこから家に帰る
途中なんですが、ところがですね、
墓地のことろで、イワン・パリー
チュクを見たんですよ、あの人知っ
てますか?」
「知ってるよ」
「何か、穴を掘ってたが、よごれ
て見るのも気持ち悪い位でした。一
体、どうしたんですか」
「いいか、ドミトリー、恥になる
ことだから、誰にも言わないよう
に。あれは女に惚れたから、こんな
ことになったんだよ」
氷の流れる河畔
 氷が溶け始めた河。イワンが氷の
上に膝をついている。イワンがシャ
ツを脱いで河で洗濯している。
 老婆の声が聞こえる。
「ああ、春がやって来て、陽気が
心地よい。水が流れて行く。以前の
イワンコは何処にいるんだろう。彼
にシャツを洗ってくれる人はいない
のかしら?食事を作ってくれる人も
いないのかしら?みんなのところに
彼を連れもどしてくれる人はいない
のかしら?家には誰もいなくなって
しまう。彼が帰ってくれば、我々が
皆で力になってやるのに。彼は恋を
したばかりにこんなことになってし
まって」
(12)
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