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「火の馬」(1991年4月26日発行)より転載
出稼人「イエスに栄光あれ!」
 人々が賑やかに机を囲み歌いさざ
めている。
 皆の座っている机とは離れた別の
机にモリハルが掛けている。男が来
て演奏する。その男にモリハルがウ
オッカを注いでやると男はおじぎを
して立ち去る。
 ヴァイオリンを持った女が来て弾
く。モリハル、女にもウオッカを注
いでやる。女はおじぎをして出てい
く 。
 モリハルが立って誰ともなく挨拶
している。
モリハル「イエス様に栄光あれ!」
 居酒屋の子供達が樽にたてかけた
梯子に腰かけている。扉のきしる音
でそちらの方を振り向く。
 パラグナが部屋に入ってくる。
パラグナ「永久に神に栄光あれ!」
 イワンとパラグナ、モリハルの机
に寄って来て、片隅に掛ける。イワ
ンが、自分とパラグナの杯にウオッ
カを注ぐ。
 ミーコと男がイワンに近寄ってき
てイワンを促し連れてイ子く。
 モリハルはパラグナを引き寄せ、
抱きしめる。
 イワンは人々が歌いさざめいてい
るテーブルで冗談を云ったり、歌を
唄ったりしているが、時々パラグナ
の方を振り向いて見る。
「おお 我が友よ
  お願いするが
  汝の友を愛して下さい」
 ミーコが、テーブルを離れる。
「私の大事なお嬢さん
  愛してくれたら嬉しいね」
「たとえ今年の夏だけでも」
 モリハルとパラグナが抱き合っ
て、煙草を喫っているところへ、
ミーコが来て、静かにパラグナの袖
を引くが、パラグナは意に介さな
い。
 ミーコが力を入れてパラグナの手
を引き、イワンの方を示す。
 ミーコ、モリハルにつばを吐きか
ける。
 モリハルがゆっくり、顔を拭っ
て、思い切リミーコをたたく。ミー
コ、倒れ、大きく叫ぶ。
パラグナ「イワン!」
 イワンが初め、ゆっくりとモリハ
ルの方へ近づく。が、かっとなっ
て、斧を手にしてモリハルとパラグ
ナの机の方へいく。
 モリハル、急に立ちあがり、自分
の斧を持ち、イワンに立ち向かう。
 憎悪に染まったモリハルの顔。モ
リハル、イワンを打つ。イワン、顔
を両手で覆う。イワンが長い間うめ
き廻り、ドアに倒れかかる。

タイトル「イワンコの死」

居酒屋の外
 イワンがモリハルの庭の棚の側を
歩いていく。中の音に聞き耳を立て
ている。
モリハルの声「パラグナ、御覧よ!」
 イワン、棚の間からモリハルとパ
ラグナの様子を見ている。
モリハル「ここを打つんだ、腕がな
えてしまうさ!ここを打いてば、足が
なえていまうさ!」
 すき間から、モリハルがパラグナ
に、どうすれば容易に人を殺せるか
を説明しているのが見える。
パラグナ「若しここを打てば?」
 パラグナが頭を指し示す。
モリハル「死んでしまうさ!ハハ」
パラグナ「可愛いい方!」
 パラグナ、踊りながら庭をかけ
る。
モリハル「パラグナ!」
 モリハルがパラグナの後を笑いな
がら追っているが、やがてパラグ
ナ、モリハルに抱きつく。
パラグナ「ユーラ!」
 イワン、棚にもたれ息をひそめて
いる。子供の時から聞き憶えのある
歌声が聞こえてくる。
霧のたちこめた森の中
 木が伐り倒され、伐りくずを焚く
煙があがっている中を、イワンがさ
迷っている。
「ずっと昔も カッコーが鳴いて
  いた
  今でもこれからも 鳴くでしょ
  う」
「あなたに ほんとうにあった
  お話をしてあげましょう
  昔の人は とても とても 大
  きかった
  世界中を歩いて廻りました。
  その人は 手を伸ばせば 天に
  も届かんばかりでした」
 イワン、伐り倒された森の中を歩
いている。
「昔の人は とても とても 大
  きかった
  病気になったりしなかった」
 イワン、やっとのことで歩いてい
く 。
「大いに飲み 食べて踊っていた
  それで神様が すっかり 怒っ
  てしまった
  朝早く起きて 神様を拝みもし
  なかった
  そして(神に祈る前の)クリス
  マス前の禁食もしなかった」
 イワン、川辺にしゃがむ。手で水
を掬って、顔の血を洗う。水面にマ
リーチカの影が映る。
 どこからとも無く、マリーチカの
歌が聞こえてくる。
「イワン 歌を唄って下さい
  あなたの 知ってる歌を
  私もあなたと一緒に唄いましょ
  う
  あなたが びっくりする程うま
  く」
 水面からマリーチカの影が消え
る。
 イワン、頭を起こす。
 イワンの声が歌う。
「娘さん 話して下さい
  何故にお前は 私の理性を奪っ
  たのです
  白樺の林に それを捨てたので
  すか
  それとも柳の林に 捨てたので
  すか」

 イワン、森の中をさ迷い歩く。彼
は、マリーチカの影をさがしている
のだ。
 マリーチカの声が聞こえる。
「あなたがとても愛してくれたの
  で
  枯れた樫にも花が咲く程でした
  だけど 別れたその後は
  あたりは 暗間になりました」
 イワン、歌を聞いている。
 マリーチカの銀の様に白い顔。
 マリーチカ、あたかもイワンの歌
を聞いているかの様な様子。
「ああ マリーチカ 私の大事な
  マリチコ
  私の愛する マリチコ
  お互いにとても愛し合っていた
  のだ
  たとえそのあいだ やっと一年
  だったけど」
 イワン、顔の血を拭う。
 マリーチカの声。
「イワン 私を占って下さい
  一日に 二度だけ」
 マリーチカ、イワンを待っている
様に。
「占ってあげようとも
  一日に 七度でも」
「林檎の本の
  白い花が 散っていた」
「子供のときの 昔から
  私達は 愛し合っていたのだ」
 マリーチカ、愉快そうな面持ちだ
が、森で路に迷ったようだ。
「私は 他国へ出稼に出た
  その仕事は とても甘いもの
  じゃない
  お前 マリチコ
  困った事になってしまった」
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