くかいせつ〉
「君たちのことは忘れない」は、78年11月
21日より79年2月中旬まで、モスクワ市内の
代表的ロードショウ館“ロシア”と“十月”
の2館で公開されていたが、軍当局の指示で
上映中止となり、同時に海外へ出すことも禁
ぜられた“自宅監禁”映画である。
映画は夫や長男をすでに戦場に送つた農婦
マトリョーナが、次男をこの上、戦いで死な
せたくないと屋根裏に匿う話だが、チュフラ
イ監督はかつて新聞に掲載されていた、12年
間、箱の中に隠れていたという兵役忌避者に
ついての記事をヒントにこの映画を製作した
と語っている。また、「危険から自分の息子
たちを護りたいという母親たちの気持が子供
たちを積極的で活気ある生活から隔離してし
まうことになる」ことを示したかったとも
言っている。
この映画は又、そうした母と子の情愛、葛
藤をその広大悠久のロシアの自然やそこに培
われたロシアの人々の心を伝えるロマンチシ
ズム溢れる流麗端正な映像に描くことで、親
と子とは、国家と個人とは、男と女の愛とは、 |
など我々にさまざまな問いかけをしている。
薄闇に沈む曠野を翔ける自馬の自い騎士、
白銀の広野に橇を走らす母――壮大で華麗と
も言うべき映像、そして国の運命に翻弄され
る幾つもの愛を慈しむような抒情と哀切にみ
ちた音楽、いづれもチュフライ作品の真髄が
うかがえる。
主演は父親がパルチザンだったというノン
ナ・モルジュコーワ。ロシア女性のおおらか
さと、刻々と不安と緊張に追いつめられてい
く母親の内面を好演している。1925年生まれ
で、出演作も多く、その役者歴はソビエト映
画のヒロインの歴史を映しているとも言われ
る。
共同脚本のヴィクトル・メレシヨは1939年
生まれで、国立映画大学脚本科出身。「絆」
(82)「夢は舞う」(83)他の代表作があり、
現代人の内面にかかわるモラルの問題を取り
あげた脚本には定評がある。映画の出演作も
あるが、最近はめまぐるしく変貌しつつある
映画界の現況を伝えるレポーターとしてTV
にも登場している。 |