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「ふたりの駅」パンフレット(1985年10月12日発行)より転載
 しかもヴェーラは勤務中に定期列車の車掌アンドレイ
と秘かに車内で睦みあったりしている仕末。そればかり
かアンドレイは列車の往復を利用して闇商売もしている
らしい。何の巡り合せか、プラトンは二人の情事の合間
に“闇物資”の見張りをさせられ、見張りの形に取りあ
げられたパスポートをアンドレイに持ち去られてしまう。
パスポートなしには国内の移動も宿泊もままならぬのが
ここの法律。アンドレイが再び折り返して来るまでの二
晩、またもプラトンは足止めを食らってしまった。
 その夜、ヴェーラはゆきがかりからか、プラトンのた
めに泊る場所を捜してみたり、こっそり持ち出した宴会
の余り物を振るまったりしてくれた。都会生活に慣れた
プラトンは戸惑うことばかりだったが、やむなく最終バ
スに乗り遅れたヴェーラと待合室のベンチでゴロ寝。そ
してまどろんだ隙に財布を盗まれてついに文なしに。
 明けて2日目、プラトンはヴェーラとコルホーズの市
場の顔役にそそのかされた様なものだが、アンドレイが
運んできたうりをさばくのを手伝わされる破目になった。
それにしても職場にいる時とは見違えたくらい、ヴェー
ラは卒直で善良だった。プラトンはこの夜、ヴェーラを
タ食に誘った。日頃かの女が働くレストランで向い合う
二人。同瞭の眼がちょっと気になるが、レストランの厨
房の裏話まで洩らしてすっかりくつろいだ様子のヴェー
ラ、思わず客相手のウェイトレスの仕事の辛さが口を突
いて出る。プラトンにしても生活に追われながら演秦会
や練習に明け暮れ、家庭は冷えきって、孤独な日々を送
っていた。かれはTVアナである妻が罪を償おうとしな
いので身代りで服役することになったことを告白した。
 何はともあれ、ウェイトレスのリューダといい仲のシ
ューリクが演奏を休憩している間に、プラトンは夕食代
を稼ぎ出さねばならぬ。ピアノに向うとまづヴェーラの
ために、それから客のリクエストに答えて弾いた。その
メロディはヴェーラの胸に奥深く染みこんだ。
 再び巡ってきた夜、泊る場所が見つからない二人は操
車場の客車の中で過ごした……。田舎町に暮らすわが身
とひきくらべ、都会のピアニストの生活はヴェーラには
まぶしいほどだ。燃えあがる思いと逡巡でヴェーラの胸
は痛んだ。
 だがその朝、操車場から駅の食堂に立ち戻ったプラト
ンは、潤んだ瞳のヴェーラが陽光を背に受けてひとり口ず
さんでいるのを聞いた――カードに賭けよう、ためらわ
ず、人生をやり直そう。そしてこの日、ヴェーラはモス
クワから折り返してきたアンドレイに自ら別れを告げた。
事の次第を知ったアンドレイはプラトンを張り飛ばした。
 斬く三日日にパスポートを取り返したプラトンはヴェ
ーラが用意してくれた切符を手にザスゥピンスク駅をあ
とにしたのだった。

 ……暗い夜道を急ぐプラトンの胸にあの別れの一瞬が
蘇っていた。闇に洩れる明かりをたよりに、小さな一軒
家にたどりつく。
 ――人気のない部屋には料理の準備が整ったテーブル
がポツンと置かれていた。

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