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無断転載を禁ず -P18- 「ふたりの駅」パンフレット(1985年10月12日発行)より転載

プラトン「その上、汽車に乗り遅れま
した。グリボエードフまで」
助役「これから気をつけて下さい。鉄
道のモットーは正確、便利、清潔です
から。グリボエードフを通るのはフル
ンゼ行き、20時46分です」
 プラトンと助役が立ち話をしている
ところヘヴェーラと民警が追いついて、
口をはさむ。助役はいよいよ逃げ腰の
口ぶり。
ニコラーシャ「どうする?金を払うか
ね?」
ヴェーラ「(助役に同意を求めるよう
に)紳士風でしょう。これで無銭飲食
するの」
助役「ニコラーシャ、任せるよ。(ヴェ
ーラに向って)ソーダ水は」
ヴェーラ「5本、あるわ」
助役「(プラトンに向い)切符の件は乗
車15分前に私の所に来なさい。何とか
考えよう」
ヴェーラ「(からかうように)お金を払
わないと乗せないわ」
 民警も助役も声を揃えて笑う。立ち
去る助役。
 プラトン、結局は民警に促されて昼
食代を支払させられる。
ニコラーシャ「払ったほうがいい」
プラトン「(3ルーブルを差し出し)食
べなかった定食代だ」
ヴェーラ「お釣りです」
プラトン「チップだ」
ヴェーラ「頂けません」
プラトン「カケ値もしないかね?」
 受け取ろうとしないプラトンの足も
とにつり銭を揃えて並べ、ヴェーラは
無表情の民警に声をかける。
ヴェーラ「証人になってね。ちゃんと
お釣りを返したから。貸し借りなしよ」
 ヴェーラ、ハミングしながら得意気
に立ち去る。
プラトン「畜生!」
レストラン
 ヴェーラはテーブルを片づけている。
プラトンが入ってくる。
プラトン「(ヴェーラにけわしい表情で)
お手数ですがね、君の受持ちでない所
を教えて頂きたい。(ヴェーラに指し示
されて)ありがとう」
 プラトン、テーブルにつく。
ヴェーラ「(リューダに向って)注文き
いてあげて。先に、お金もらうのよ」
 リューダはバンドのリーダー、シュ
ーリクと別のテーブルの席でいちゃつ
いゼている。
リューダ「シューリクが来てるの」
ヴェーラ「(片づけを続けながら)今夜、
歌うの?」
シューリク「新しい歌をね」
ヴェーラ「すてき、楽しみだわ」
シューリク「(傍でまつわりついてくる
リューダに)頭を冷やせ。昼日中だぜ」
 ヴェーラ、やむなくリューダに代っ
てプラトンに注文を訊ねに来る。
ヴェーラ「(気取った口調で)ご注文
は?」
プラトン「(ヒステリックな口調で)君
は、おっかないからイヤだ」
 プラトン、席を蹴って出て行く。
ヴェーラ「あの人、おかしいわ」
シューリク「お盆で殴ってやれ」
待合室のビュッフェ
 プラトン、ビュッフェで軽食を取ろ
うとするがここも休憩中で断わられる。
アナウンス「ザストゥピンスク教育大
の皆様、第2ホールヘ食券をとりに、
おいで下さい」
別のアナウンス「赤い靴下の女の子が
迷子になっています。赤い靴下のお子
さんをお捜しの方は駅長室へおいで下
さい」
レストラン
 再び舞い戻ってきたプラトン、レス
トランで食事を取る覚悟で椅子にかけ
ている。ヴェーラがとりすました態度
で注文を聞きにくる。
プラトン「メニューをくれ」
ヴェーラ「まあ、筋を通す人が、私の
出す料理でもいいの? お腹すいてる
のね」
プラトン「ボルシチが口に合わなかっ
たし」
ヴェーラ「食べないのに味が分るの?」
プラトン「何か軽いものくれよ」
ヴェーラ「(よどみなくしゃべり続ける)
いいわ。乗り遅れさせた責任もあるか
ら。町のお客として、もてなすわ。い
つも云われるのよ。通りがかりのお客
にもサービスしなさいって。駅の食堂
は町の顔だからね。チキンいかが?」
プラトン「(領いた後、代金を支払い
ながら)先に払っておくよ。信用ない
から」
ヴェーラ「ソーダ水も」
プラトン「(代金を払いながらひとり言
のように)ついてないな」
ヴェーラ「お気の毒ね。2ルーブル70」
 ヴェーラ、テーブルクロスのごみを振
り払うように引っくり返して敷き直す。
 調理場で料理を並べた盆を受け取
ったヴェーラ、ちょっと傍の鏡に顔を
映してみる。
アナウンス「リボフ行きの切符が届い
ています。落した方は案内所へどうぞ」
ヴェーラ「(盆を片手に、舞台に向っ
て)一曲ひいてあげて」
シューリク「分った。任しとけ」
 ヴェーラ、シューリクが奏でるメロ
ディに併せて盆を運んでくる。
ヴェーラ「(プラトンの前に料理を並べ
ながら)ごゆっくり」
プラトン「おかげ様でね。こんな所に
いたくはないけど」
 ヴェーラ、何気なくプラトンの側に
あるサイドテーブルに向って腰かけ、
テーブルにある大きな算盤でレシート
を次々と合算しながら、背中ごしにプ
ラトンに話しかける。
ヴェーラ「どう?」
プラトン「(料理にナイフを入れながら)
ウェートレスのようだ」
ヴェーラ「筋っぽい?」
プラトン「そう。オーケストラ入りか
い?」
ヴェーラ「ええ、夜はね。あなたの荷
物は汽車に乗ってたの?」
プラトン「これだけさ。グリボエード
フに2日いる予定だった。大事な一日
がパーになったよ。おねえさん、名前
は?(ヴェーラをあらためて振り向き)
おねえさん?」
ヴェーラ「(背を向けたまま)旅行者に
は落ちないわ」
プラトン「アタックする気もないよ」
ヴェーラ「何とでも言って」
 ヴェーラ、舞台の方へ立ち去る。
レストランの舞台
 歌を口ずさみながらピアノを弾くシ
ューリクと背中合せに腰かけて耳を傾
けているリューダ。ヴェーラ、近寄っ
てきて舞台の縁に腰を下ろす。
リューダ「(ヴェーラに気づいて立ち上
り)ヴェーラ、薬局に行きなさい。シャ
ンプーが入ったわ。ユーゴ製よ。髪が
増えるって。10本、買っちゃった」
待合室の公衆電話
 電話回で話をしているプラトン。通
りすがったヴェーラがちょっと立ち聞
きする。
プラトン「聞かれても僕の居所は言う
なよ。適当に言っとくさ。月曜の朝に
は帰る。別荘の話なんか、今はいい。
(ヴェーラに向って)立ち聞きするな。
(再び電話回に向って)君に言ったんじ
ゃない。いやな奴がいてね。僕は高い
塀のある別荘に入るんだ。父さんに電
話して一日遅れると伝えてくれ。心配
はない。僕は大丈夫だ」
 電話を終えたプラトン、シャンプー
を抱えて戻ってきたヴェーラと出会う。
プラトン「そんなにシャンプーを買っ
て、スープ代りかい?」
ヴェーラ「あんたのね」
プラットホーム・告知板の前
 プラットホームの人混みを歩いてい
たプラトン、手配写真の載った告知板
にしばし眼を止めている。
アナウンス「動物学会に出席予定の皆
さま、学会は都合により当分延期にな
りました。お帰りの切符は2番窓口で
扱っております。チェックの背広を着
たお客様、犬を3番ホームからどけて
下さい」
レストラン
 プラットホームに面した窓ごしにプ
ラトンの姿が見える。テーブルにラン
チを並べているヴェーラ。行進曲が聞
こえ始め、レストランは再び慌しくなる。
ウェートレス「私のお盆は?」
ウェートレスU「調理場よ」
ウェートレスUの声「冷めちゃったわ」
ウェートレスの声「急いでるから食べ
るわ」
プラットホーム
 入ってくる列車。制服姿の車掌アン
ドレイが降車口で身を乗り出し、ホー
ムに向って叫んでいる。
アンドレイ「ヴェーラ、待ってたか?」

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