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無断転載を禁ず -P19- 「ふたりの駅」パンフレット(1985年10月12日発行)より転載

レストランの窓にヴェーラの笑顔が
見える。
アンドレイ「今、着いたぞ」
 列車を降りたアンドレイ、制帽を被
り両手に大きなトランクを持ってレス
トランヘ歩き出す。
レストラン
 ヴェーラ、気もそぞろに浮き立つ
表情で素早く身仕舞いを直し、靴を履
きかえ、ハンドバッグを手にして窓辺
に走り寄る。
プラットホームのベンチ
 ヴェーラが待つレストランの窓辺を
めざして来るアンドレイ。窓の下には
ベンチがある。アンドレイはトランク
を足もとに置くと、窓からヴェーラを
抱き寄せるようにしてベンチに腰かけ
させる。
アンドレ「ヴェラちゃん」
ヴェーラ(嬉しさを隠し切れぬように)
「アンドレイ」
 ベンチの片隅には次の列車を待ち合
せるプラトンが所在なく腰かけている。
同じベンチで抱き合うヴェーラとアン
ドレイ。二人は肩を寄せあって話を交
わしている。
ヴェーラ「臨時乗務?」
アンドレイ「人手が足りなくてね。会
いたかったよ。行こう」
ヴェーラ「(拒むむ表情で)今、忙しいの」
アンドレイ「主任は?」
ヴェーラ「リューダよ」
アンドレイ、リューダを呼び寄せ窓ご
しにみやげ物を渡して手なずける魂胆。
アンドレイ「ちょっと頼む」
リューダ「(愛想よく)分ったわ。早く
行って。停車時間が短くなるかも」
アンドレイ「(トランクを身近に引き寄
せ)これを何とか……。チャイジュイ
名産のマクワウリだ。重いから、ここ
に置かしてくれ。ここでは幾らだ?知
らんのか?」
 アンドレイとヴェーラ、プラトンを
ちらちらと横眼づかいに見ながらひそ
ひそ話をしている。うさん臭そうにし
ているプラトン。
アンドレイ「(プラトンに向って)あん
た、こんにちわ。当分いますか?」
プラトン「夕方まで」
アンドレイ「(トランクを目配せして)
見てて下さい。旅券は?お持ち?見せ
て下さい」
 プラトンが云われるままに旅券を差
し出すと、アンドレイはそれをちょっ
とあらため、返さずにそのまま自分の
ポケットにしまい込む」
アンドレイ「頼むぜ、高いマクワウリ
なんだぜ。しっかり番してくれたら、
あとで一つやるよ」
 アンドレイ、ヴェーラの背を抱くよ
うにして自分の列車へ連れて行く。
プラトン「(立ち去る二人に)旅券を
返して下さい。困りますよ」
アンドレイ「10分たったら返してやる
よ。何も心配ない」
列車・乗務員室
 アンドレイはせわしなくドアを閉め
窓のカーテンを下ろし、制服も脱いで
すっかりその気、しきりと誘惑するが、
ヴェーラは微笑を浮かべ品を作ってな
かなか応じようとしない。
アンドレイ「(ドアを引っぱりながら)
何だ、動かないぞ。ちょっと待って。
古い車両だからな。さあ、ヴェーラ」
ヴェーラ「会いたかったわ」
アンドレイ「早くしろ、セルフサービ
スじゃないぞ。昨夜は大変だった。ゲ
ルカが乗せてやった違中がね、酔っぱ
らって寝てしまうし、ゲルカは歯が痛
いって泣くし、ウォッカを幾ら飲んで
も治らなくって。どうした?(ヴェー
ラの胸元のボタンをはずしかけ)ぬげよ」
ヴェーラ「気分、出ないわ。せわしな
くてイヤ」
アンドレイ「仕方ないだろう、商売柄」
ヴェーラ「いつも思うの。1週間くら
い、ゆっくり過したいわ。一緒に映画
を見たり」
アンドレイ「俺は汽車に乗るのが仕事
なんだ」
ヴェーラ「分ってるわ」
アンドレイ「お前は盆を持って走り回
る。早くぬげよ」
ヴェーラ「どうしたのか気分が乗らな
いの」
アンドレイ「(ちょっと真顔になって)
俺に厭きたのか?」
ヴェーラ「好きよ」
アンドレイ「なあ、そら。停車時間は
短いんだ。早くしてくれ」
 行進曲が聞こえ始め、発車前の騒々
しさが伝わってくる。
ヴェーラ「ダメだわ。汽車の中じゃ」
アンドレイ「子供じゃあるまいし」
ヴェーラ「だって」
アンドレイ「どうしたんだ?お前はお
かしいぞ。俺の身にもなってくれよ」
ヴェーラ「ダメよ」
 アンドレイは観念して慌てて身支度
する。ヴェーラは別れのキスをして、
出ていく 。
アンドレイ「振られたな。どちみち時
間切れだ。停車時間が短かすぎるよ。
待ちな。キスくらいさせろ。殺生だぜ。
今度は明後日だぞ」
プラットホームのベンチ
 見張りをさせられているプラトン、
トランクの中のマクワウリを取り出し、
切ってひとり食べ始める。
列車・乗務員室
 アンドレイ、車掌室の窓を力ずくで
開けて身を乗り出し、ホームで見送っ
ているヴェーラに向って叫ぶ。いちい
ち領いているヴェーラ。
アンドレイ「(窓がなかなか開かない
ので)大臣に手紙、出そう。 (動き出し
た列車の窓からヴェーラに)明後日の
12時10分だ。遅れなけりゃな。待って
ろよ。マクワウリはキロ3ルーブルだ」
プラットホームのベンチ
 マクワウリを食べているプラトンの
傍に腰かけるヴェーラ
プラトン「ちゃんと番してたよ。これ
は――見張り賃だ。約束だから。これ
全部、どうする?」
ヴェーラ「売るのよ」
プラトン「3ルーブル?旅券を返して」
ヴェーラ「(一瞬、呆然として)あなた
の旅券、モスクワヘ行ったわ」
プラトン「冗談いうな」
ヴェーラ「なぜ旅券を渡しちゃったの?」
プラトン「制服の人に要求されたからさ」
ヴェーラ「ご免なさい。ちょっとトラ
ブルがあって。忘れてたわ」
 興奮してわめきだすプラトン、ヴェ
ーラも負けじと立ちあがってやり返す。
プラトン「どうしてくれるんだ?この
厄病神!」
ヴェーラ「まあ、ひどい」
プラトン「あんな唐変木と、いちゃつ
いて」
ヴェーラ「何よ、アンドレイは立派な
人だわ」
プラトン「闇屋だろう」
ヴェーラ「悪い人じゃないわ。(近づい
てきた駅員に向って)これ、一時預けに」
プラトン「旅券を返せ!問題だぞ」
ヴェーラ「あのね、明後日の12時に戻
るわ。ええ、12時ちょうどにアンドレ
イが来るの。私が預っとくわ」
 二人揃ってアーケードの方へ歩き出す。
ヴェーラ「(静かな口調になって)かん
べんして」
プラトン「父の所へ行かなきゃならない」
駅のアーケード
 歩きながら話を続けるヴェーラとプ
ラトン。
ヴェーラ「行きなさいよ。旅券は帰り
に返すから」
プラトン「帰りは飛行機でないと遅れ
るから」
ヴェーラ「一日くらい遅れたって平気よ」
プラトン「ダメなんだよ。事情があっ
てね」
ヴェーラ「何をしでかしたの?」
プラトン「銀行強盗さ」
ヴェーラ「まあ、カッコいい!」
 ヴェーラと別れたプラトン、時刻表
の前に暫らく足を止め、そのあと切符
売り場の窓口に立ち寄る。
切符売り場
 窓口にプラトンの顔が映る。切符係
の女性のトランジスターからはプガチ
ョワの歌が聞える。
プラトン「こんばんわ。幸せそうな名
前の駅はないかね?切符を買うよ」
切符係「酔っぱらいに売るものはない
わ。よそへ行ってよ」
プラトン「悪かったね」
待合室の公衆電話
 電話口で話し続けるプラトン。ヴェ
ーラが現われ、遠まきに様子を伺って
いる。
プラトン「僕だ。その後、どう?まだ
働いているのかい?現場検証は?その
恐れはあるね。僕のことは心配するな
よ。証拠はないんだ。君の出番は明日
?親父に電話した?明後日になったと

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