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無断転載を禁ず -P20- 「ふたりの駅」パンフレット(1985年10月12日発行)より転載

伝えてくれ。それがね、話せば長くな
る。小銭がないから切るよ」
駅の出日
 ヴェーラはプラトンのことが気にな
る様子で、駅の出日まで追ってきて、
立話となる。
プラトン「立ち聞きするな」
ヴェーラ「心配なのよ。私のせいでこ
んな事になったから。家で何かあった
の?」
プラトン「人を殺した。車ではねてし
まった」
ヴェーラ「(ぐっとしおらしい態度で)
もっとお話ししてよ。怒ってるのね。
どうしていいか分らないわ。毎日、間
違いが多いのよ。お金のことや何かで」
プラトン「(落着いた声で)もう、怒っ
ちゃいない、分ってるよ。君に悪気は
なかった。気にしないでいいったら」
ヴェーラ「ご免なさいね」
 ヴェーラ、街へ出て行くプラトンを
しばし見送っている。
レストランの入口・夜
 守衛がドアを開く。
 中は満員の客とバンド演奏に併せて
踊る人の群れで、昼と打って変って大
変な喧喋。
守衛「(ドアを開け)満員です」
プラトン「ヴェーラに用がある」
守衛「そんなら、どうぞ」
レストラン
 中に入ったプラトン、カウンターの
バーテンに向って「ヴェーラはどこ?」
 舞台ではシューリクのバンドが昼間
練習していた新曲を演奏の真最中。結
婚披露宴の客も入り混じって踊りの輪
が拡がっている。
 調理場の前では客のオーダーを整理
してレシートを打ち出しているヴェー
ラが一瞬、人影の中にプラトンを見つ
けるが、あとは目もくれず、配膳台に
先れて体でリズムを取りながら料理が
上がるのを待っている。
 披露宴のテーブルに料理を運んでい
るヴェーラに酩酊した中年男が横から
声をかける。そこヘプラトンが近寄る。
酔っに払い「ボーイさん、もう1本くれ」
ヴェーラ「ボーイじゃないわ」
酔つ払い「お嬢さんでもなかろう」
ヴェーラ「人間として話さない人は嫌
いよ」
プラトン「また相談に来た。今まで町
を見物していたんだ。旅券がないと泊
る所もない」
ヴェーラ「(予期していた風に)私も、
それを考えてたの」
 プラトン、片隅の椅子に掛けて一時
ヴューラと酔っ払いのやりとりに見と
れている。
ヴェーラ「いい加減にして帰りなさい
な。怒るわよ」
酔っ払い「分ったよ。幾らだい?」
ヴェーラ「21ルーブル」
酔っ払い「(テーブルに財布をそのまま
突き出し)これから取ってくれ」
リューダ「(近寄ってきて)料理は出し
たわ。コーヒーは?」
ヴェーラ「(酔っ払いに)静かにして下
さい。(リューダに)紅茶6、コーヒー
15」
 ヴェーラは酔っ払いに財布を返して
席を立たせようとする。
ヴェーラ「もう、飲まないで。さあ、
早く帰って」
酔っ払い「チップを取れ」
ヴェーラ「家庭があるんでしょ」
酔っ払い「女房と子供2人、犬が1匹」
ヴェーラ「1ルーブル頂くわ」
酔っ払い「少なすぎる。3ルーブル取
っとけ」
ヴェーラ「じゃ、2ルーブルね。あり
がとう。財布を落さないでよ。家の人
が待ってるわ」
 ヴェーラ、酔っ払いに上衣を着せか
け、肩をたたいて送り出す。
ヴェーラ「待ってるわよ。道は分る?」
酔っ払い「バカにするな」
 千鳥足の酔っ払い、つぶやきながら
出て行く。
 椅子にかけて所在なくヴェーラを待
っているプラトンの生気のない表情。
矯正労働収容所・回想
 プラトンが入所する光景。
レストラン
 プラトン、椅子にかけたまま、宴会
の余り物を分け合っているヴェーラを
待っている。
シューリク「煮こごりは要らないよ。
どうせ溶けちまう」
ヴェーラ「(別れを告げながら)シュー
リク、すてきな歌をありがとう」
シューリク「盛り上ったね」
 ヴェーラ、プラトンと運れ立ってア
ーケードヘ向う。
ヴェーラ「お待ちどう。いいホテルを
世話してあげるわ」
プラトン「疲れたよ」
アーケード
 プラトンとヴェーラ、話をしながら
アーケードを抜けてインツーリストホ
テルヘ向う。
ヴェーラ「どうして旅に出たの?隠れ
るため?」
プラトン「判決前に親父と会っとくの
さ」
ヴェーラ「申し訳なかったわ」
プラトン「年だから。僕はモスクワを
出てはいけないんだ」
ヴェーラ「私が証人になるわ」
プラトン「裁判所から足どめされてる。
宣誓させられた」
ヴェーラ「職業は何だったの?」
プラトン「ピアニスト」
 歩きながら、感じ入った表情のヴェ
ーラ。
プラトン「楽団のね。巡業が多い。ほ
とんど旅のホテル暮しだ」
ヴェーラ「とんだ一日だったわね。で
も、一流のとこ世話するわ」
プラトン「君の一流って、どんな所か
な?」
ヴェーラ「インツーリスト・ホテルの
ロビーは、どう?」
"インツーリスト"のロビー
 当直の金髪娘マリーナは二人が入っ
ていくと、暇つぶしに縫いかけの自分
のウェディングドレスを仕上げている
ところ。
ヴェーラ「しばらく」
マリーナ「いよいよ結婚するのよ。い
ろいろあってね。式は木曜日よ。出てね」
ヴェーラ「お婿さんは決めたの?」
マリーナ「まだよ」
 ウェディングドレスの裾を縫いなが
ら得意気な表情のマリーナ。ヴェーラ
は話の糸口を切り出そうと傍に腰を下
ろす。
ヴェーラ「どういうこと?」
マリーナ「候補者が二人いるのよ。ペ
ーチカとミーチカよ。ペーチカは……
とてもいい人。給料いもいいけど大酒の
み。ミーチカは飲まないの」
ヴェーラ「(思わず口添えする)いい人」
マリーナ「給料も少ないわ。だから一
応、結婚届だけ出しといたの。両方の
役所に。(笑いだしながら)木曜日まで
に決めるわ」
ヴェーラ「(笑いながら)いい加減な人
たちね」
 女たちの笑い声につられて自分も笑
いながら口をはさむプラトン。
プラトン「もっと頼れる男を…」
マリーナ「そんな人、どこにもいないわ」
 マリーナ、自分の間近にぐっと身を
寄せてきたヴェーラに目配せしながら
プラトンの品定めをしている。
ヴェーラ「この人を、どこかに泊めて
やってほしいの。私の責任なのよ。お
願いだから」
 急に態度を変えて自分の席に戻るマ
リーナ。机をはさんでヴェーラとプラ
トンが何とか泊めてもらおうと懇願し
ている。
マリーナ「ダメよ。ここは外国人専門
だわ」
ヴェーラ「誰もいないじゃない」
マリーナ「急に日本人が来るかもしれ
ないわ」
ヴェーラ「彼はピアニストよ。賞も取
ってるわ」
マリーナ「珍らしくないわ」
プラトン「(生真面目な顔で)国際コン
クールの受賞者で、日本人だよ」
マリーナ「(少し声を荒げて)あなたた
ち、私をクビにしたいの?誰を泊めた
か、すぐ分るのよ。就職するのに、す
ごく苦労したんだから」
待合室
 乗客で一杯のベンチの合間を抜けて
行くプラトンとヴェーラ。
ヴェーラ「ダメだったわね」
プラトン「バス停まで送るよ」
ヴェーラ「あなたはどこで眠る?」
プラトン「ここでいい。どうせ人生は
駅の待合室だ」
ヴェーラ「そんな寝言、いって」
プラトン「君の所に泊めてくれないか?」
ヴェーラ「男の人はダメよ」

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