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無断転載を禁ず -P24- 「ふたりの駅」パンフレット(1985年10月12日発行)より転載

なかなか出ないな。パトカーが来た時、
僕が罪をかぶった」
 ブラウン管に天気予報の女性アナウ
ンサーが登場する。
プラトンの妻の声「こんばんわ」
ヴェーラがおうむ返しに答えている。
プラトンの妻の声「ヨーロッパ地域に
張り出していた高気圧は次第に弱まっ
てきました」
ヴェーラ「(画面を注視しながら)テレ
ビに出る人は愛想いいわね」
プラトン「家内だ」
ヴェーラ「(羨やましげに)きれいで魅
力的な人ね」
プラトン「僕が罪をかぶったとたんに、
彼女は冷静になったよ」
プラトンの妻の声「次はモスクワのお
天気。モスクワの明日は暖い乾いた一
日でしょう。気温は27度くらいまで上
りそうです」
●レストラン
 ヴェーラとプラトン、互いにいたわ
り合うように静かにステップを踏んで
いる。
ヴェーラ「(踊りながら)マイカー…飛
行機で行く人に、テレビに出る人に…
私とは別世界ね。ウェートレスとは。チ
ップを当てにしたり残り物を食べたり、
お客には、いばられて最低だわ」
プラトン「(少し高い声で)何を言うん
だ」
ヴェーラ「(思わずプラトンを見つめ)
ほら」
プラトン「(ヴェーラと見交しながら)
いばったりしないよ。君のおかげで助
かってるんだから」
ヴェーラ「でも初めは……」
プラトン「感謝している」
ヴェーラ「ほかの人でも助けてくれた
わ」
プラトン「(踊りつづけ)君でよかうた。
そう思うよ。君は羨んでるけど、僕ら
は幸せじゃない。僕は練習、録音、コ
ンサート。収入は少ないんだ。だから
何でも数でこなしてた。忙しいから友
達は遊びに来ない。家内も料理するの
が好きじゃないし、用のある人しか来
なくなった。楽しくないよ、全然。娘
は勝手に生きてる。放任しすぎた。忙
しすぎてね。つまり僕たちの暮してる
所は、都会の砂漠さ。皆、孤独だ」
 演奏が終り、バンドは休憩に入る。
プラトンはヴェーラを席に坐らせ、自
分は胸もとのネクタイを直して気取っ
て見せると――
「運命だね。君のために一曲弾くよ」
プラトン、舞台へ駆け上ると、ピア
ノに向い、ロマンチックなメロディを
弾き始める。
 舞台に引き寄せられるように聞き入
っているヴェーラに脇からヴィオレッ
タが近寄る。
ヴィオレッタ「運んでいい?」
ヴェーラ「(陶酔した表情で)すてき!
(ヴィオレッタに向って)ちょっと遠慮
してよ」
●ウズベク人のテープル
 市場で隣り合せの売り台にいたウズ
ベク人が若い女性連れで食事をしてい
る。
ウズベク人「(ごきげんな表情で、舞台
の方を振り返りながら)俺の友達だ」
若い女性「(甘える調子で)あの曲、淋
しくなるわ」
ウズベク人「リクエストは?」
若い女性「リズミカルなの」
ウズベク人「お安いご用だ。(舞台に近
づいてプラトンに)よう、俺のこと覚
えてるだろ? 何かリズミカルなのを
やってくれ」
 ピアノを弾いていたプラトン、手を
休めて領くと、受取ったチップをピア
ノの蓋の裏側に隠し傍のマイクロフォ
ンに向って叫ぶ――
「皆さん、太陽の国ウズベクの友人の
ために。ハートに、ぐっと来るのを一
曲」
 音楽は軽快なリズムに変る。ウズベ
ク人と若い女性が体を揺すりながら踊
り出す。
 休憩中のシューリク、舞台裏から姿
を現わし、演奏中のプラトンに近寄り、
親しげに――
「ライバル」
プラトン「よう」
シューリク「客演か?」
プラトン「パンのためさ」
シューリク「俺のパンを取るな」
プラトン「(弾くきつづけながら)財布を
盗まれたんだよ。夕食代を稼がせてく
れ」
シューリク「ヴェーラと一緒か?メニ
ューは?」
プラトン「(数えあげるように)コニャ
|ンク、ソーセージとキェフ・カツ」
シューリク「よし」
プラトン「サラダも」
シューリク「その辺でやめとけよ」
 踊っているカップルの合間をぬって
中年の女性が舞台に近ずく。
中年の女性客「今日、主人の誕生日な
の」
 演奏中のプラトンに代ってリクエス
トを受けているシューリクに女性客が
チップを渡す。
中年の女性客「"瀕死の白鳥″を弾いて」
プラトン「(リクエストに応じ)大丈夫」
シューリク「(チップをピアノの蓋の裏
に隠しながら)貯釜箱へ入れとくぜ。
弾きな」
●ヴェーラのテープル
 再び食事をしながら談笑する二人。
ヴェーラ「私のためだなんて。ちゃっ
かり稼いでいるのね」
プラトン「一石二鳥というやつさ」
ヴェーラ「でも、よかったわ。あんな
いい演奏、聞いたことないわよ。感動
しちゃった」
プラトン「ありがとう。こういう所だ
と目立つけど、大したことない」
ヴィオレッタ「(デザートを運んでき
て)お待ちどおさま」
プラトン「とても、おいしかったよ」
ヴェーラ「特別だものね」
ヴィオレッタが伝票を差し出そうと
する。
プラトン「伝票はシューリクに回して」
ヴェーラ「早く回しなさいよ」
●舞台
 ピアノの前のシューリク、ヴィオレ
ッタが回してきた伝票を一瞥するとピ
アノの蓋の裏に隠していたチップを取
り出して支払う。
 楽団の演奏が始まり、再び人々が踊
り始める。
●ヴェーラのテープル
 ヴェーラの目差が真剣味を増してく
る。
ヴェーラ「罪のない人が裁判にかかる
の?」
プラトン「そういう運命だ」
 ヴェーラ、通りがかったヴィオレッ
タを呼び止め――
ヴェーラ「チョコレート・ケーキにコ
一ヒーとフルーツ」
プラトン「もう払えないよ」
ヴェーラ「今度は私のおごり」
 杯を飲み千す二人。
ヴェーラ「無実なのに……」
プラトン「家内を監獄に入れる?」
ヴェーラ「何か方法ないの。(気をとり
なおすように)モスクワに帰ってから
電話してもいい?」
プラトン「いいとも、電話を待ってる
よ。簡単な番号だ。123 4567。覚えや
すいだろう」
ヴェーラ「覚えたわ。電話するわね。
(微笑を浮かべて)いけないかな?冗
談よ。電話したりしないわ」
プラトン「平気だよ」
●待合室・コイン・ロッカーの前
 別れの握手を交わす二人。
プラトン「楽しい夜だった」
ヴェーラ「光栄だったわ」
プラトン「バス停まで送るよ」
ヴェーラ「お宿を決めてからね。外人
用のホテルを世話するわ」


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