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無断転載を禁ず -P25- 「ふたりの駅」パンフレット(1985年10月12日発行)より転載

 先に立ってホテルヘ歩き出すヴェー
ラ。
プラトン「(後に続きながら)断られた
じゃないか」
ヴェーラ「今夜は、うまく行くと思う
わ。当直が別の人だから」
"インツーリスト″のロビー
 当直のユーリャは中年でいつも微笑
を絶やさぬ知的な美人。テレビの傍に
ゆったりと腰かけている。ヴェーラ、
かの女に懇願している。
 側に気まずそうに立っているプラト
ン。
ヴェーラ「そういう訳で旅券がないの。
何とかしてあげてよ」
ユーリャ「(隠やかな口調で)何か、メ
リットがあれば」
ヴェーラ「彼って、すごくピアノが上
手よ」
ユーリャ「ピアノはないわ。トランプ
は上手?」
ヴェーラ「(すかさず)もちろんだわ」
プラトン「(照れくさそうに笑って)ピ
アノほどでは」
ユーリャ「どうしようかな? ちょう
ど今夜は議員さんも泊る予定ないし、
何とかするわ」
ヴェーラ「(ちょっと顔色を変えて)何
とかするって、どうするの?」
ユーリャ「任せなさいよ」
プラトン「(苦笑して)捨て大だな」
ユーリャ「(プラトンをしげしげと見つ
めながら)この人も言うわねえ」
ヴェーラ「(ユーリャに)ありがとう」
ユーリャ「(大きな瞳に微笑を浮かべ
て)こちらこそ」
ヴェーラ「(ふと傍のショーケースを覗
きこみながら、プラトンに)じゃ、私
は帰るからここに泊ってね」
プラトン「ありがとう」
ユーリャ「(プラトンに席をすすめ)坐
って」
 プラトン、一瞬振り返って、外に出
て行ったヴェーラを追い、戸口でガラ
ス越しに――
プラトン「あすの朝、食堂へ行くよ。
楽しかった」
ヴェーラ「(ガラス窓の向うから)私も
よ」
ロビーの応接テープル
 ユーリャ、ワインとグラスを棚から
取り出しながら――
「まだ馴れそめ? ヴェーラは傑作な
人よ。当分、一緒にいるつもり?」
 ソファーに腰掛けたプラトン、テー
ブルの上の雑誌をめくっている。
プラトン「汽車に乗り遅れたんで。
偶然ね。あした発つつもりだよ。彼
女の…… 車掌から旅券を受け取れ
ば」
ユーリャ「知ってたの?」
プラトン「それも偶然さ」
 ユーリャ、プラトンと並んで腰かけ
グラスにワインを注ぎながら――
「亭主が悪い奴だったのよ。出張先で
美容師とできちゃって。有線で連絡し
たから村中が聞いたの。ヴェーラに二
重の恥かかせて」
 茫然とした表情のプラトン。
ユーリャ「あとで膝まずいて謝ったけ
ど、彼女、許さなかったわ。それでア
ンドレイと…… 飲みましょう」
プラットホーム
 ヴェーラが外から窓ごしにロビーの
中の様子を覗くようにして歩いている。
入口まで来ると忍び足で中に入る。
ロビーの応接テープル
 ユーリャとプラトン、乾杯している。
ユーリャ「よろしく。ユーラよ」
プラトン「プラトン」
ユーリャ「モスクワの方?」
ヴェーラ「(急、に歩を速めて近寄り)私
よ」
ユーリャ「(振り向いて)どうしたの?」
プラトン「(驚いて立ち上り)嬉しいよ」
ヴェーラ「(照れくさそうに)バスに乗
り遅れたの。本当よ」
ユーリャ「私は、お邪魔みたいね。遠
慮するわ」
 ユーリャ、席を立つと、片隅の事務
机から鍵を取ってきてヴェーラに手渡
しながら――
「宿泊室にでも行ってるわ。ごゆっく
り。朝まで」
プラトン「ありがとう」
ヴェーラ「ありがとう」
ユーリャ「(相変わらず笑顔で)いいのよ」
 ユーリャ、外へ出て行く
 プラトンとヴェーラ、応接テーブル
をはさんで立ち尽したまま、思いのた
けを打ち明ける。
ヴェーラ「(感極まった表情で)心配だ
ったの。あなたと彼女が。見ないで。
私もバカね、何か言って。いつか今度
のこと思いだすわよ。駅で足どめくっ
てウェートレスと遊んだっけって。
おかしいわね。下らない女だけどどう
せ旅の恥……
プラトン「(瞬きひとつせず眼を潤ま
せ)そんなことない。大事な人だと思
ってるよ。君のすべてが好きだ。すべ
てが。君は、ぶらないから心が安まる。
構えない自分のままでいられる。この
駅で初めて自由を感じた。(ちょっと微
笑を浮かべて)おかしいけど本当だ。
君は自分の価値を知らない。(真剣な目
差で)善良で美しくて魅力ある、すて
きな人だ。すばらしい」
ヴェーラ「(むせぶような声で)ねえ…。
そんなこと言われたの初めてよ」
 出回のドアをたたく音。
ユーリヤ「大変だわ!大変だわ!」
 ユーリャが飛びこんできて――
「お邪魔しちゃって悪いけど、天候の
せいでモスクワの空港がクローズした
の。(事務机の方に走り寄りながら)そ
れで、お偉方が大勢泊りにくるって。
忙しくなるわ」
操車場・夜
 幾条ものの線路が並ぶ夜の操車場。
プラトンとヴェーラが線路上を歩いて
いる。
プラトン「客車で寝るんだね」
ヴェーラ「半分しか当ってないわ。夜
は鍵をかけてあるのよ。変なのが忍び
こまないように。従妹が車掌だから何
とかしてくれると思うわ」
 闇に浮かぶ、やぐらの上の事務所に
通じる階段を上っていくヴェーラ。あ
とに続くプラトン、何事か言いたげに
ヴェーラに声をかけるが、ついに言い
淀んで言葉にならない。
 拡声器からはよく聞きとれぬラジオ
放送が響いている。
客車・コンパートメント
 ヴェーラ、ベットをしつらえながら―
「ほら、いいベットよ。私は行くわ」
 プラトン、ヴェーラを強く抱擁する。
ヴェーラ、まるで突き放すように身を
はずす。
ヴェーラ「いい思い出のままで」
プラトン「残酷だよ」
 闇の中で言葉を交わし合う二人。
ヴェーラ「ここじゃ、イヤ」
プラトン「知ってる」
ヴェーラ「どういう意味?」
プラトン「別に」
ヴェーラ「(少し声を荒らげて)何よ?」
プラトン「何でもない」
ヴェ一ラ「アンドレイと客車に入った
こと?何もなかったわ」
プラトン「信じるよ」
ヴェーラ「疑ってる目だわ」
プラトン「よく見えるね」
ヴェーラ「本当に何もなかったのよ」
プラトン「信じてるよ」
ヴェーラ「信じてないわ。そうでしょ
う。言ってよ。私たちは、どうにもな
らないわ。あなたはピアニストで私は
ウェートレス」
プラトン「バカな!」
ヴェーラ「そうでしょう」
プラトン「ピアニストが偉いのか?」
ヴェーラ「もちろんよ。人間は平等だ
と言いたいの?」
 プラトン、ヴェーラに嘆願するよう

「行かないでくれ。今の僕は、君がそ
ばにいてくれないと……」
 ヴェーラ、なだめるようにプラトン
の胸を両手でいといながら
「この客車ならば楽に眠れるわ。ゆっ
くり休んでよ」
 ヴェーラ、コンバートを出て行く。
操車場
 聞き取りにくいラジオ放送が聞こえ
る。停車中の列車の左右の窓に各々思
案げに椅子に掛けているプラトンとヴ
ェーラの姿が映る。
客車
 二人は各々自分のコンパートメント
から壁ごしに話を続ける。
ヴェーラ「ねえ、刑期は何年くらい?」
プラトン「軽くて三年だろう」
ヴェーラ「証言するわ。あなたの無実
を」
プラトン「信じてくれないよ」
ヴェーラ「あなたから聞いたって言え

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