●雪原の道・朝
白銀に輝く凍てついた道。プラトン
はアコーディオンを手に持ち、ヴェー
ラはプラトンの後を追って走り続ける。
プラトン「点呼に遅れる」
ヴェーラ「一緒に行くわ」
黒い2つの人影が走り続ける白い海
原にヴェーラの歌声がかぶる。
歌声「ここの暮しは平凡で/天国みた
いに単調だ/カードに賭けよう、ため
らわず/人生をやり直そう/あの頃は
若かった/躍る心は今はない/一か八
かに体当り/恐れず、もう一度出直そ
う」
あえぎあえぎ走るプラトンとヴェー
ラ。ヴェーラは通りかかったトラック
をいったん止めたが、運転手は連れの
プラトンの姿を目にするや、手の裏返し
て乗せてくれない。仕方なく気を取り
直して歩く2人。
ヴェーラ「早く行って。私に構わずに
行って。その調子よ、偉いわ。がんば
って。もっと急いで」
プラトン「何時だ?」
ヴェーラ「あと7分。早く行って。私
は、もうダメ。(足を引きずって)歩け
ない」
収容所の高い塀が曙光の淡い色に |
僕が持つ。持って行くよ」
プラトンが倒れるように転ぶ。
ヴェーラ「がんばって、起きて! 起
きてよ。がんばって」
●矯正労働収容所
囚人が整列して朝の点呼が始まって
いる。
将校「(名前を呼びあげて)リャビーニ
ン」
●雪原の道
へたりこむように坐りこんでいる二
人。ま近に見える監視塔に向ってヴェ
ーラが声をあげる。
ヴェーラ「ここよ! ここよ! 見張
りの人! リャビーニンはここよ!」
●矯正労働収容所
将校が隊長に報告している。
将校「第4班点呼終り。欠員が1名出
ました。リャビーニンです」
隊長「(不安そうに)戻って来なかった
か?」
将校「はい、逃亡です」
●雪原の道 |
点呼の声をかすかに聞きながら、ヴ
ェーラが咄嗟にプラトンにアコーディ
オンを演奏させることを思いつく。
ヴェーラ「(アコーディオンをプラトン
の肩にかけながら)弾いて!」 座りこんだまま必死になってアコー
ディオンを弾くプラトンの背を自分の
背で支えながら、ヴェーラは叫ぶ。
ヴェーラ「早く、力いっぱい弾いて、
もっと大きな音で」
●矯正労働収容所
プラトンが奏でるメロディーが朝の
しじまを流れる。監視塔から兵士が雪
原を見渡している。
隊長の顔に安堵が浮かぶ
隊長「逃亡じゃない、帰ってきた」
●雪原の道
朝日に染まる白い一条の道に背中合
せに坐っているプラトンとヴェーラ。
流れるメロディは一層高まって、カメ
ラは引く。
(終)
シナリオ採録 野原まち子 |