●ものがたり
伯父の領地の別荘。小さな自然の湖と月の出を背景に、劇作家を志す、若きトレープレフ(ウラジミール・チェトヴェリコフ)が書いた戯曲が、隣の地主の美しい娘ニーナ(リュドミラ・サベーリェワ)によって演ぜられている。トレーブレフは、退屈で惰性的なこの時代の全てに我慢できず、その不満の発露を新しい劇形態の創作に求めているのだ。
しかし、彼の母であり有名な女優でもあるアルカージナ(アッラ・デミートワ)や、彼女の愛人であり書かねばならないが書けないという苦悩を背負っている著名な作家トリゴーリン(ユーリー・ヤコヴレフ)等は、彼が上演したこの野外演劇を真に理解しようとはしない。有名な作家の前で恥をかかせられ、トレープレフは自殺を計るが未遂に終る。彼の焦りはますます高まるばかりである。
一方、ニーナは女優になることを夢みて、きびしい親の眼を盗んではトレーブレフと演劇活動を続けていた。彼女は演劇仲間であるコースチャが自分に抱く愛を知りつつも、女優として大きく成長するには別の生き方をしなければならない、と考えるようになっていた。そして、その気持ちを受けとめたのはトリゴーリンであった。ニーナは彼のもとヘと去ってゆく。そして、彼女はトリゴーリンの子供まで生む。
一度はニーナとの愛を選んだトリゴーリンであったが、その生活も長くは続かなかった。彼が欲し、彼を必要としているのは、実はアルカージナだったことに気づいたからである。
トリゴーリンに恋人を奪われて2年後、立ち直ったトレープレフはようやく雑誌に小説を載せる作家にまで成長していた。
そんな折、ニーナが夢破れて、昔の家にもどってきた。田合廻りの女優として新たな人生を歩んでいたニーナを支えているのは、試練に耐えて彼女自身がつかみとってきた、自己のオ能を信ずる、という信念であった。もはや、過ぎ去った時は還らない…… |