ДРАМА НА ОХОТЕ
「狩場の悲劇」は、「かもめ」「桜の園」「三人姉妹」などの作品で、近代戯曲に大いなる足跡を残した巨匠チェーホフの、唯―の長篇小説である。、ヨーロッパでは、"チェーホフの探偵小説″として知られており、ハリウッドでも映画化されたことがある。
地方の田園生活を背景に、19歳の美しい娘をめぐって愛と犯罪とが交錯する、一種のサスペンス・ロマンという形式をとっているが、その奥には、チェーホフ独特の奥深く人間的なドラマが存在している。
チェーホフ存命中に出版された作品集には、「狩場の悲劇」は収録されていなかった。しかし、チェーホフの作品としては初期の1884年に書かれたこの小説からは、文豪のその後の作品に見られるモチーフ――社会環境がもたらす個性の崩壊と、それに対する激しい苦悩――をうかがい知ることができる。
監督は、日本でも上映されて好評を博した「ジプシーは空にきえる」(1976)のエミーリ・ロチャヌー。過去の彼の演出作品である「赤い草原」(1966)や「モルダヴィヤのバイオリン弾き」(1972)と同様に、この作品にも、美しいシチュエーションが用意されている。モスクワ郊外のワルエヴォに、ロケーション。古い田園の情景が美しく再現され、 ドラマの本質そのものである人間たちの苦悩が鮮やかに表現されている。
ヒロインのオーレニカには、ヴォロネジ・バレエ学校の学生ガリーナ・ベリャーエワが抜擢された。そして、オーレニカを愛してしまう予審判事カムィシェフには、1980年代のソビエトで絶頂の人気を誇った俳優、オレーグ・ヤンコフスキー。他に、ベテランのキリール・ラヴロフ、「ジプシーは空にきえる」のスヴェトラーナ・トマらが、名演技を競っている。
時代と残酷な環境の不幸な犠牲となり、その若い才能をいたずらに破減させ、ついには自らも人々をも不幸にしていく、この映画の人間像は、現代にも共通しているものといえるだろう。 |