ДАМА С СОБАЧКОЙ
1960年カンヌ国際映画祭特別参加賞/ロンドン国際映画祭最優秀映画賞
チェーホフ生誕100年記念作品
「かもめ」「ヴァーニャ伯父さん」「三人姉妹」「桜の園」などの戯曲で知られる、アントン・パーヴロヴイチ・チェーホフ(1860年〜1904年)は、トルストイ、ツルゲーネフ、ドストエフスキーなど多くのすぐれた作家が輩出した19世紀という、ロシア文学の偉大な世紀の最後をかざった大作家である。
チェーホフは短篇小説の名手として有名で、その数多い短篇のなかでも1899年に書いた「犬をつれた奥さん」は、きめの細かな心理描写と芸術的完成度の点で最も傑作といわれている。
「小犬をつれた貴婦人」はその映画化であり、チェーホフ生誕100年祭を記念して1959年に製作された。
19世紀末、「困難な時代」と呼ばれた帝政ロシア末期の沈滞しきった希望のない灰色の時代、クリミヤ半島の避暑地ヤルタで始った中年の紳士グーロフと「犬をつれた奥さん」アンナとのひと夏のはかない恋、妻と子を持つ男と人妻との間に、死んだような生活にほのかな生への希望をとり戻させる愛情が生れる。しかしふたりの愛はその生活を変える力と勇気と未来をもっていない。
人間の孤独と愛への切望を心にくいまでにうたい上げた名作を、イオシフ・ヘイフィツ監督はこの作品にふさわしい簡潔さで見事に映画化した。
イオシフ・ヘイフィツ監督は、1905年レニングラード生れ。1920年に発表した「顔に風」が監督第一作である。彼が認められたのは「バルチック艦隊の代議員」(1937)からで、その後「大家族」(1954)「ルミヤンツェフ事件」(1956)でソビエト映画界のなかで確固たる地位を礎いた。
「小犬をつれた貴婦人」は数多いチェーホフ文学に基く映画化作品のなかで最高作品の一つとされている。
撮影は「イワン雷帝」(1944〜45)「ドン・キホーテ」(1957)の名手、アンドレイ・モスクビン。19世紀末のクリミヤ半島の避暑地ヤルタの夏、寒く凍りついたモスクワの街々がチェーホフの繊細な描写さながらにモスクビンの手でスクーリンに再現された。
グーロフを演ずるは「戦争と貞操」(1957)で世界的にも有名となった男優アレクセイ・パターロフ(1960年には「外套」で監督)。彼は、イオシフ・ヘイフィツ監督の「大家族」で初めて劇映画に出演した。その後、「ルミヤンツェフ事件」「君に奉仕する理由」に次いでヘイフィツ監督の作品には四本目の出演となった。
相手役のアンナには、モスクワ国立大学の学生演劇に出演していたイヤ・サーヴィナが抜羅され、純真無垢な女主人公を見事に演じている。
1960年第13回カンヌ国際映画祭において、その高いヒューマニズムと芸術的水準にたいし「特別参加賞」を授けられた。 |