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その夜、シュトラウスは新しいワルツを深い感動に包まれて演奏しました。会場にはオリガもいました。指揮台に立ったシュトラウスは、彼女の輝くような眼差に気づくと会釈をしました。彼女も微笑みをもってこれに応えました。コンサートが終ると、2人は公園で会いました。パブロフスクの公園の水面に2人の影が映りました。
オリガは、ときめく心と不安を抑えて、シュトラウスの後を追いました。伯爵家の娘ともあろうものが人気があるとはいえ、身分も低く、まだかけだしの音楽家の部屋を訪れるなどは、無鉄砲きわまりないことでした。
オリガは、シュトラウスについてロマンチックな夢を描いていましたが、この夜、オリガはシュトラウスの口から、音楽家の道を歩むことを拒まれた不運な少年時代や、父親に見捨てられた家庭と、母親や残された兄弟のために早くから生計を立てていかねばならぬ境遇を知らされたのでした。それは強く、彼女の心を揺り動かしました。 |