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「肖像画」は、ゴーゴリが1835年に発表した論文・小説集『アラベスキ』に収録された同名の短編小説が原作。いわゆる「ペテルブルグもの」の1作で、眼光するどく形相すさまじい老人を描いた肖像画にまつわる物語です。貧乏画家がこの絵を手に入れて持ち帰ると、夜、絵から老人が抜け出し懐から金袋を取り出すという夢を見ます。ところが、絵の額縁から本当に金袋が出てきて、画家は金持ちになり、一躍、流行作家となります。しかし、美術学校時代の友人がイタリアから帰国して開いた展覧会の絵を見た主人公は、自分の画力のなさを恥じ、自信を喪失して、自分の絵を並べてみているうちに老人の幽霊に憑かれ狂死してしまいます。その後、肖像画は競売にかけられることになりますが、この絵はもともと例のイタリアから帰国した画家の父親のものでした。父親からこの絵は不浄なもので、見つけたら破棄せよと厳命されていたものだったことなどを画家は語りはじめます。画家の話が終ったとき、肖像画は跡形もなく消え失せ、その場にいた一同は唖然とするのでした…。と、いうのがゴーゴリの小説のあらまし。
映画は、1915年の作品で監督はウラジスラフ・スタレーヴィチ(1892〜1963)。世界初の人形アニメといわれる「麗しのリュカニダ」(1912)を生み出した人です。当時の観客が本物の昆虫と間違えたというほど精緻な昆虫の人形たちが主人公の一連のアニメーションを作ったことで知られています。スタレーヴィチは、革命後の1921年、亡命してパリに住み、人形アニメの撮影監督・演出家として活躍しました。1927年の「蝉と蟻」、1928年の「魔法の時計」は日本でも公開されています。
「肖像画」は、実写によるトリック撮影の映画です。ワンシーン・ワンカット、動かないカメラと、1915年という製作年を割り引いても旧態たる演出ですが、トリック・シーンの繊細さには人形アニメの創始者らしさを見ることができます。
原作者のゴーゴリ、このスタレーヴィチも主人公のようにサンクトペテルブルグの美術学校で学んでいたことがあるというのも何かの因縁でしょうか。 |