[かいせつ]
1999年東京国際映画祭芸術貢献賞受賞
1999年ヴェネチア国際映画祭正式出品作品
ドイツ・オーストリア・日本合作による、タジキスタンの俊英、バフティヤル・フドイナザーロフ監督の長篇第3作。
女優を夢見る17歳の娘が、ある月の夜、俳優を名乗る男に誘惑され、妊娠する。男は消え、父親は怒り、娘のお腹の父親を探すため、アフガニスタン戦争の後遺症に苦しむ兄と三人での旅が始まる。劇場を訪ね歩く彼らの旅は、いつ終わるともなく、国境地帯の紛争も見え隠れするものの、まるで主人公たちの旅に同行しているような、あるいは、まるで映画の登場人物の夢を共有してしまったかのような感覚に浸らされてしまう。リアリスティックでありながら、同時にマルク・シャガールの絵画を思わせるファンタジーの世界へトリップしてしまう摩訶不思議な映画である。
CGを多用する現代ハリウッド映画に一泡吹かせたかったというフドイナザーロフ監督は、タジキスタンとウズベキスタン、キルギスの国境付近で撮影を敢行した。この映画に登場する街や劇場は、実はすべてが砂漠の中に建てられたセットで、総勢200名のスタッフで作り上げたこの空想の世界は、CGを圧倒するホンモノの迫力で、作品に深みを増している。
内戦下の過酷な状況の中で、反政府ゲリラの襲撃を交わしながら、撮影は何度となく中断を余儀なくされたという。
監督のバフティヤル・フドイナザーロフは、デビュー作「少年、機関車に乗る」(91)でいきなり世界的に注目され、第2作「コシュ・バ・コシュ〜恋はロープウェイに乗って」(93)では93年のヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞に輝くなど、才能と幸運を併せ持っている。
生命力に溢れ輝きを失わない娘、マムラカットを演じているのは、カザフスタン出身でモスクワで舞台女優としても活躍しているチュルパン・ハマートヴァ。
兄ナスレディンは、「ラン・ローラ・ラン」でローラの恋人役を演じたモーリッツ・ブライプトロイが、好演している。 |
|
[あらすじ]
タジキスタンの湖の辺の美しい小さな村。17歳の少女マムラカットは、ウサギ農場を営む父と、戦争の後遺症で精神を病む兄と三人暮らし。女優を夢見るマムラカットは、村にやって来る劇団の公演を心待ちにしていたが、公演の日、家族でウサギを売りに行く途中偵察隊の兵士の尋問につかまってしまい、舞台を見逃してしまう。がっかりした彼女に、暗闇から男が声をかけてくる。姿の見えない声だけの男は、劇団の役者と名乗り、マムラカットを誘惑する。青い月の光の下で、彼女は影の男と結ばれた。男はその後、姿を消してしまった。
村の収穫祭りの日、マムラカットは自分が妊娠してしまったことを知る。堕胎を決意した彼女は、親友の、スベーと共にとなり村の医者を訪ねる。だが、ゲリラの銃撃戦の流れ弾で、医者はあっけなく死んでしまう。
マムラカットは、自分の妊娠を父親に告白する。厳格な父親は怒り、娘のためになんとかして相手の男を探し出そうと決意し、兄とマムラカットを連れて、子供の父親探しを始めるのだった。
しかし、男の手がかりは一向に掴めない。日ごとにマムラカットのお腹は大きくなっていった。まだまだ古い慣習の残る村で、父親もわからない子を身ごもることは、村人全てを敵に回すようなもの。日ごとに村人の嫌がらせがエスカレートしていく。
父親は怪しげな俳優のリストを作り、兄と共に誘拐同然に有名な歌手を連れてきたりする。当てにならない二人を残してマムラカットは一人で列車に乗って男を捜しに出る。そこで彼女は、ドクターに出会った。悲嘆にくれ、列車に飛び込もうとするマムラカット。ドクターは彼女を止めようと、思わず叫ぶ。「僕が父親になるよ!」
ドクターことアリクと意気揚揚と村に帰ってきたマムラカットは、父親に紹介する。意外にも父親も娘の婿としてアリクを気に入り、結婚することになった。しかし、結婚式の最中、空から大きな物体が落ちてきた。飛行機で運んでいた牛が事故で落下したのだ。運悪く、牛は結婚式場となっている船を直撃し、アリクは海に転落した。結婚式は一転して葬儀の場となってしまった。
マムラカットは、放心したままスベーのカフェでぼんやりと働くだけの日が続いた。ある日、ロシア人操縦士がやってきた。この男が、あの事故を引き起こした飛行機の操縦士だったことを知って、殺気だつマムラカット。一方、男も意を決して彼女に話そうとする。彼こそ、捜し求めたお腹の子の父だったのである… |
|
[スタジオ/製作年] ドイツ・オーストリア・日本合作映画
1999年製作 |
|
[スタッフ]
原作・脚本:イラークリ・ナザーロフ
監督:バフティヤル・フドイナザーロフ
撮影:マーチイン・グシュラハト
ドゥシャン・ヨクシモヴィッチ
ロスチスラフ・ピルーモフ
ラーリ・ラルチェフ
美術:ネグマト・ジュラエフ
音楽:ダーレル・ナザーロフ |
|
[キャスト]
マムラカット:チュルパン・ハマートヴァ
ナスレデイン(兄):モーリッツ・ブライプトロイ
サファール(父):アト・ムハメドシャノフ
アリク:メラーブ・ミニッゼ
操縦士:ニコライ・フォーメンコ
スベー:ローラ・ミルゾラヒーモヴァ
カビブラの声:ポリーナ・ライキナ |
|
[ジャンル] 長編劇映画
[サイズ] 35mm / ヴィスタ(1:1.66) /ドルビーSRD/カラー
[上映時間] 1時間47分
日本語字幕:石田泰子
[日本公開年・配給] 2000/7/29・ユーロスペース |