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無断転載を禁ず -P17- 「ふたりの駅」パンフレット(1985年10月12日発行)より転載

郊外の雪原
 真冬。夜の間が拡がる郊外。中空に
満月がかかる。有刺鉄線の高い棚を張
りめぐらした矯正労働収容所が薄間に
かすんでいる。周囲に監視塔が数ヶ所
あり、そこから射す投光機の明りが、
キャンプの庭に整列する囚人たちを照
らし出す。点呼の真最中である。
矯正労働収容所
 点呼が終り、各将校が隊長に次々と
報告する。
将校「第2班、夜間点呼終り、全員異
常ありません」
将校T「第3班、異常ありません」
将校U「第4班、全員異常ありません。
棟内に収容します」
 将校の号令に従い、各々列に従って
建物に向う囚人たち。その囚人たちの
背に隊長から声がかかる。
隊長「リャビーニン、ちょっと来い」
 列を外れて立ち戻ってきたリャビー
ニン、凍てつく寒さに足踏みしながら
けげんな顔つきで、温厚な表情の隊長
と話を交わす。
隊長「奥さんが来てるぞ。面会だ」
リャビーニン「会いたくありません」
隊長「バカ言え。はるばる7,000キロ
も遠くから来てくれたんだ」
リャビーニン「向うの勝手です」
隊長「行けよ。外出を許すから」
リャビーニン「どこです?」
隊長「村に部屋を借りたそうだ。つい
でにイワンの所へ寄って、出したアコ
ーディオンを持ち帰れ。君は音楽家だ
ろ?」
 妻との面会を促すような隊長の言葉
にリャビーニン、思わず領ずく。
隊長「奥さんには会わんでもいいが、
アコーディオンの件は命令だ。かなら
ず朝8時までに帰れよ。朝の点呼まで
にな。遅刻は逃亡とみなすぞ」
矯正労働収容所・棟内の通用ゲート
 プラトン、警備兵に外出許可証を手
渡し、ボディチェックを受ける。警備
兵は帽子のつばの裏や長靴の中を引っ
くり返して検査する。
リャビーニン「村は近いかい?」
警備兵「10キロくらいだ。酒、刃物、
金は持ちこむなよ」
警備兵、リャビーニンを通用口から
送り出し――「期限は明朝8時で、遅
刻は逃亡とみなされて刑期が延びるぞ」
雪原・夜
 吹雪を避けるように、前屈みに道を
急いでいるリャビーエン。月はいよい
よ高くなっている。夜空にサブタイト
ルがかぶる。
客車
 コンパートメントの椅子に掛けてい
るプラトン、列車が駅に近づいた気配
に、読みさしの雑誌を置くと窓ごしに
外に眼をやる。到着を知らせる行進曲
の音がホームから一段と高く聞こえて
くる。
 反対側の窓に"ザストウピンスク駅″
の表示のある駅舎が映り、プラトンは
廊下伝いに走って下車する。
アナウンス「ザストウピンスクに到着
します。20分停車ですJ
プラットホーム
 列車を飛び下りたプラトン、他の乗
客たちともども、ホームに面したレス
トランに吸いこまれるように入ってい
く 。
レストラン
 テーブルは二列にセットされ、すで
に定食ランチが整然と並べてある。乗
客たちは各々、身近な席につくと急い
で食べ始める。サングラスにアタッシ
ュケースのプラトン、身仕度からも都
会の紳士風、荒てて席につく。テーブ
ルの合間をウエートレスのヴェーラが
立ち働いている。乗客とウエートレス
の言葉が飛び交ってよく聞き取れない。
ヴェーラ「さあ、どうぞ召し上れ。(客
に呼び取められ)お待ち下さい」
乗客U「お願いしますJ
乗客T「サラダは?」
ヴェーラ「定食にはつきません」
 プラトン、ボルシチの器を両手で持
ちあげ匂いを嘆いでみては気が進まぬ
様子でまた、もとに戻す。
プラトン「何か軽いものを」
ヴェーラ「定食しか間に合いません。
胃が悪ければ寝てなさい」
プラトン「こんなのが食えるか!」
食事を済ませた乗客が次々と席を立
ち、出口で昼食代を支払って出て行く。
代金を取りたてるウェートレスと乗客
の声が入り乱れて騒然としている。
ヴェーラ「1ルーブル20。細かいので」
プラトン「(ついに食べるのをあきらめ)
ダメだ」
乗客「(代金を催促され)テーブルに置
いたよ」
ヴェーラ「(空いた席を指し示しながら)
お金、誰が受け取った?」
「前払いにしないとダメだよ」
ウェートレス「そうだわ。誰か、お金
もらった?」
ヴェーラ「一人、出て行ったわよ。ほ
ら」
ウェートレス「(客に)1ルーブル20で
す」
ヴェーラ「(客に)お払い下さい。(空い
た席を見ながら)あそこに坐ってた人
は…」
レストランの出入口
 プラトン、ヴェーラに呼び止められ
る。二人が押間答を繰り返すうち、別
のウェートレスや守衛も集ってきてひ
と悶着となる。客は他に、もう誰もい
ない。
プラトン「食べてない。(自分の席の方
を目配せし)ほら」
ヴェーラ「とにかく払って下さい」
プラトン「手もつけてないよ。見ただ
けで払えるか!」
ヴェーラ「からかわないで」
プラトン「食べてないったら。もう汽
車が出る」
ヴェーラ「皆におごるほど貰ってない
わ」
プラトン「ここの従業員全部でおごれ
ばいいさ。どけ」
ヴェーラ「警察、呼ぶわよ」
 守衛、警官を呼びに飛び出して行く。
プラトン「(まるで居直った態度で椅子
に腰かけ)呼ぶがいい。誰を呼ぼうと、
食わんものには払えん」
アーニャ「どうしても?」
ヴェーラ「食い逃げ!」
 ウェートレスに取り巻かれて腰かけ
ているプラトン。行進曲が鳴り始め、
列車が動き出すのが窓ごしに見える。
守衛が民警大尉ニコラーシャを連れて
飛んでくる。
守衛「(民警の方を振り返って)この男
です」
プラトン「食わんから払えん。当然だ」
ヴェーラ「定食しか間に合わないと云
ったら食べてたわよ」
ニコラーシャ「よし、調べよう」
プラトン「胃液でも分析するんですか?
絶対、食べてない」
ニコラーシャ「調書を取る。君は代金
1ルーブル20を…」
プラトン「金額の問題じゃない。筋を
通すんだ。食ってない。(いらいらした
様子で)汽車が出てしまうよ」
 ニコラーシャ、ポケットから書類を
取り出し、プラトンの傍に腰かけて――
「調書は、すぐにできる。どの汽車か
ね?」
プラトンが「ドウシャンベ行き」と
言うや、ヴェーラが叫び声をあげる。
ヴェーラ「もう発車したわ。天罰てき
めんね」
 吃驚して傍の窓の方を振り向くプラ
トン、慌てて窓から跳び出し、列車に
向って走る。彼の背にひとしきリウェ
ートレスがはやし声を浴びせる。.
プラトン「待ってくれ!止めてくれ!」
プラットホーム
 行進曲の音が一段と高まり、乗客で
溢れかえるホームをプラトンが発車し
た列車を追って必死で走っている。
プラットホーム・レストランの前
 レストランの窓からはウェートレス
や守衛、民警が顔を寄せ合ってじっと
様子を伺っている。
 音楽が止むと、ヴェーラは勢いこむ
ようにして窓からプラットホームに跳
び下り、民警と一緒にプラトンを追う。
ヴェーラ「いい気持。お金とってやる
わ。一緒に来て」
人影まばらになったプラットホーム
 プラトン、ホームにいた助役に苦情
を訴えるが、助役はそつない返事を繰
り返すばかり。
助役「(掃除係に)もっとよく掃かんか
!駅は町の玄関だぞ」
プラトン「助役さん、聞いて下さい。
食べてもいないのに代金を払えと言う
んです。駅の食堂でですよ」
助役「(無関心な様子で)私は食堂では
食べないんですよ。家内が料理上手な
ので」

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