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「ストーカー」(1981年10月31日発行)より転載 |
伏せる。教授と作家も座席で身を低 くする。 ストーカー(地に伏したまま)「伏せ て! 静かに!」 ●路地の角 モーターバイクの警備兵が姿を現 わすが、路地裏に止まっているジー プに気づかず、立ち去る。ストーカ ー、再ぴハンドルを握り、出発する。 ●線路沿いの倉庫 ジープは倉庫の開け放たれた戸の 前に止まり、作家がジープを下り、 急ぎ倉庫を抜けて、反対側の道の様 子を覗いに行く。 ストーカー「誰もいませんか?早く 調べて下さい。」 作家(シープの方に戻りながら)「誰 もおらん。」 ストーカー(発車させながら)「そっ ちへ回って。」 シープが去ると、傍の線路をデイ ーゼル機関車が通過する。 倉庫の反対側に回って、作家を乗 せると、ジープは塵介が散らばった 通りを抜け、裏通りに出るが、また、 モーターバイクを見つける。 ストーカー(慌てて革をバックさせ) 「まずい!」 警備兵が現われ、モーターバイク に乗って去る。 ●路地 ストーカー、建物の窓枠ごしに、 警備兵が去るのを認めると、ジープ に引き返し、急ぎ発車する。 ●鉄道ゲート 広く開かれた門。ディーゼル機関 車が通過した直後、横道から"レン ドローバー"が現われ、機関車の後 に隠れてゲートを通る。 怪訝な表情の鉄道員がジープを眼 で追いながら、金網の間を開じて、 立ち去る。 ●路地 モーターバイクの警備兵が走り過 ぎる。 ●地下室 廃墟と化した建物の地下室。三人 が乗ったジープが、中へ突っこむよ うにして止まる。 ストーカー(下車しながら)「ここで 待ってて下さい。」 ストーカー、地下室の奥の破れた 窓から外を見あげる。 ●鉄道ゲート 線路を鉄道員が急いで走り去る。 ●地下室 ジープに乗ったままの教授と作家。 ストーカーの声「ガソリン缶は?」 教授「持って来た。」 教授、下車する。 作家(組み合せた両手を膝に載せ、 バーで交わした話を続けて)「さっき、 私が言ったことは全部でたらめです よ。インスピレーションなんか関係 ない。何のために行くのか……。私 |
にも分りません。自分が何を望んで いるのか、何を望んでいないのかが 明確でないんです。何か考えついて も、その名を口に出すと、すぐ、氷 のように溶けて消えてしまう。私は 菜食主義者であるけれども、肉のう まさは忘れられない。一体、私は何 を欲しているのか?」 教授(地下室の窓の方に歩きながら) 「世界制覇でしょ。」 ストーカー(振り返って)「静かに!」 教授(窓の外を見ながら)「機関革が ゾーンに入る。」 ストーカー「監視所までですよ。そ の先は恐がって、誰も行きません。」 ●監視所 警備員が一人、線路を走り去る。 遮断機が上がる。投光器が明るくな り、ディーゼル列車が進入してきて、 停車する。両側から警備員たちが集 って来て、機関車や無蓋貨革を取り 囲んでいる。 警備員の一人「配置につけ。」 ●地下室 外の様子を見ていたストーカー、 急ぎジープに引き返し、数授も慌て て跡を追い、ジープに乗る。 ストーカー(教授を急かし)「早く。」 ジープは監視所に向って発革する。 ●監視所 監視所を通過するディーゼル列車。 その陰に隠れるようにして、"レンド ローバー"が走って行く。ジープに 気づいた警備兵の銃が火を噴き、サ イレンが鳴って騒然となる。 射撃を受けた無蓋貨革は、積荷の 陶器の碍子が次々と砕け散る。 なお射撃は止まず、碍子が砕け落 ちて、電線がぶらぶらしている。 ●廃墟の建物 二人が乗車したジープは、警備兵 の射撃を除けながら、もはや廃墟と なった建物のなかを早いスピードで 逃走する。 ●石油貯臓所 ジープは荒れはてた石油貯臓所の 前で停車する。 ストーカー(作家に)「見てきて下さ い。軌道車が線路にあるかどうか。」 作家「軌道車?」 作家は言われるままにジープを下 り、草の茂みを掻き分けて、軌道車 の方へ行く。 だが、射撃の音にひるみ、草叢に 身を伏す作家。 リュックを手にした教授、周囲を 警戒しながら、草叢に忍び寄って来 る。 教授(作家に)「私が行きます。」 教授はあちこちに水溜りのある、 荒れすさんだ廃墟を、足元を気づか いながら進む。 水溜りに警備兵の射ちこんだ弾が 落ち、波紋が浮かぶ。 軌道車にまでたどりつくと、教授 |
は手を振って二人に合図する。"レン ドローバー"が軌道車の近くまで 来て止まり、ストーカーと作家が下 車する。 ストーカー「ガソリンを。」 ストーカーと、片手に袋、片手に ガソリン缶を持った作家が軌道車に 走り寄って来る。 ストーカーがまず、軌動車に乗る。 作家「荷物は要らんでしょう。」 教授「散歩じゃありませんよ。」 ストーカー「もし、弾に当ったら、 騒がずに引き返すんですよ。見つかれ ば本当に殺されてしまいますから。」 ストーカーが軌道車のエンジンを かけ、教授と作家も乗る。 ●軌道車 塵捨て場や、壊れた建物がえんえ んと並ぶ荒涼たる境界地帯を進んで 行く軌道車。 監視所の方を見つめる作家の横顔 のクローズ・アップ。 作家「追ってこないか?」 ストーカーの声「警備兵だって恐が つていますから。」 作家「誰を?」 作家の顔にうっすらと涙の跡が見 える。 周囲に気を取られている風情の教 授の顔、つづいて、前方に注意を集 中しているストーカーの顔のクロー ズ・アップ。 やがて軌動車は湖の傍を過ぎる。 作家がまどろんでいる横顔のクロ ーズ・アップ。周囲は森閑として、 軌道車の規則正しい音だけがこだま している。 緊張した面持ちのストーカーのク ローズ・アップ。 再び、まどろんでいる作家の顔の クローズ・アップ。目を覚ますと、 今度はゾーンの方向に目をやる。 ●ゾーン(カラー画面となる)・堤 緑の本立が鮮やかなゾーンヘと延 ぴている軌動車の線路。木立ごしに 川の流れが見え、そこここには電柱 が倒れかかっている。 二人は一瞬、息づまるような思い で緑深い光景に眺め入っているが、 各々、思い思いにゾーンに下り立つ。 ストーカー「さあ、着きました。こ の静けさ。ここが一番ですよ。いま、 ご案内します。きれいな所で、人ひ とりいません。」 作家「私らがいる。」 ストーカー「三人では何も変らんで しょう。」 作家「変えられるさ。」 ストーカー「おかしいな。花の香り がしない。あなた方にはどうですか?」 作家「沼地の匂いがする。」 ストーカー「向うに川があるんです。 ここには花壇もありましたが、ジカ プラスが踏みにじって。でも花の香 りは何年も残ってたんですがね。」 |
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