タイトル「この映画はイワンとマ
リーチカの崇高な愛をめ
ぐる詩的なドラマであ
る。映画はわれわれを古
いカルパチアの民間伝承
や儀式、風俗の世界に誘
う 。」
タイトル「アレクサンドル・ドヴ
ジェンコ映画スタジオ製
作 1964」
タイトル「M・コチュビンスキー
生誕100周年に捧ぐ」
●森の中
イワンコ。斧の音を聞いている
が、やがて、声に出して叫ぶ。
イワンコ「オレークサ!」
イワンコ、林の中を走る。
イワンコ「オレークサ!きこえるか
い?」
誰も返事しない。
イワンコ、背中の袋に手をさし込
んでパンを取り出し、それを見せる
ようにして叫ぶ。
イワンコ「オレークサ、こっちに来
て食べなよ」 |
(木の倒れる音)
オレークサ「逃げろ、イワンコ、逃
げろ」
とど松の本が轟音と共にオレーク
サとイワンコの方に倒れる。
オレークサが倒木の下敷になる。
彼は死に際にイワンコの袖口を掴
んだ。イワンコ、オレークサの手か
ら自分の手を引き抜こうとする。
イワンコ「放してくれ!オレ…オ
レークサ、兄貴、放してくれ、放し
てくれ、兄貴。」
イワンコは自分の手を引き抜き、
恐ろしくなって森の中を逃げるよう
に走る。
森の中にトレムビータ(カルパチ
ヤの民族楽器)の音がひびきわた
る。
タイトル「忘れられた祖先の影」
(鐘の音)
タイトル 「神や人々から忘れさら
れたグツールの土地一―カルバチ
ア」
真新しい白樺の十字架を立てた墓 |
のそばにオレークサの父と母とイワ
ンコの二人。父は墓の雪を踏み固め
ている。
パリーチュクの妻「吾が子、オレク
シクよ、吾が子オレークサよ。私は
寝ていてもお前の苦しみが見える。
恵み深き神様よ、たった一人残され
た私の子イワンコを守り給え……神
よ」
イワンコ聴き入る。聖者祭の教会
の附近、頭巾や肩掛けをした婦人、
飾り金具や鎖や十字架を持った男
達、鈴飾りをつけた男の子を二人も
連れたジプシー。三つ又の杖を持っ
た白髪の老人、肩に羊をかついだ若
者達。薬草を持った老人。長い髭を
はやした老人、自分の芦笛を得意気
に披露している。ブープリキ(輪形
の厚パン)を持った男。チーズで
作ったおもちゃを持った婆さんが手
を打ちながら
老 婆「おん馬だ、おん馬だ、そ
ら、わたしのお馬だよ」
男たちは二本の棒に吊るした色
テープをふりまわしている。二人の
白痴が掴み合いをして、互いにのの
しり合っている。その中の一人がイ
ワンコに近づいて怒鳴る。 |