ウラジオストック2007年9月(3)
扇 千恵
キラ・ムラートワ監督
『長い見送り』(1971) 今回のウラジオストック映画祭に参加した大きな収穫の一つは、キラ・ムラートワの健在ぶりを確認できたことだった。彼女の作品『短い出会い』(1967)『長い見送り』(1971)が共にペレストロイカ後の1987年になってようやく上映を許可されたというコメント付きで初めて彼女の作品を観た私にとっては、何よりもまずそういった彼女の作家性の方に心を奪われてしまった。この2作品については、他の作品と同様になぜ20年もオクラいりになったのか、日本での上映当時も今も私には分からない。次に観た作品は『無気力症シンドローム』(1990)で、1991年に銀座テアトルとキネカ錦糸町で開かれた「ソビエト女性映画人週間'91」で彼女が来日講演すると知り、わざわざ上京した。

『無気力症シンドローム』(1990) 噂にたがわず無愛想な物腰だったが、過激で本質的な発言をする人だという印象は私の中でますます強められた記憶がある。ペレストロイカによって初めて製作可能になったと言われたこの作品は、ソビエト社会そのものの無気力症を一人の学校教師の存在をその象徴として描いたと言えるが、このときも話題になったのは「ラストの地下鉄内における婦人の独白はロシア語の最も下品な言葉をつらねたものとして、反対者の怒りが集中した」という内容だった。残念ながら私は字幕付きであれ、これらの批判を理解するだけの語学力に恵まれていなかったし、今も変わらない。この作品はベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞している。

 1997年、モスクワ映画祭に参加したとき偶然彼女の新作『3つの物語』を観ることができ、おまけに会場間を往復するバスの中で監督自身と隣り合わせになった。しかし、せっかくのチャンスにもかかわらず、言葉が出てこなかった私は会釈しただけだったと思う。小柄でおとなしい感じの人だった。しかし、その印象とは裏腹に作品の過激だったこと。3つの物語とは3つの殺人の話で、しかもそれぞれが異常で残酷だった。特に、10年たった今でもはっきり覚えているのは、足の不自由なお爺ちゃんと留守番をしていた5歳位の女の子が、1人で外へ出てはいけないというお爺ちゃんの注意がうるさくて、ネコイラズでお爺ちゃんを殺害する話である。この祖父を演じているのがかの有名なオレグ・タバコフだったので驚いた。もうひとつ、子供の出来ない若い女性が産院で出会った中絶希望の女性を殺す話。この若い女性を演じているのが、ロシアの女優の中でも個性的な美貌の持ち主で、現在ではトップスターであると同時に監督も手掛けているレナータ・リトヴィノーヴァである。ムラートワの作品の常連でもある彼女は、今年私がウラジオストックで観た最新作『Two in one』(2006)でも主役の一人として登場する。

 さて、この話も初演の直前に舞台上でピエロの衣装を着て首つり自殺をした一人の俳優の姿が発見されるところから始まる。またもや「死」である。舞台の床面に下ろされた死体は、しかるべきところに運ばれる訳でもなくそのまま放置され、開演準備に忙しい俳優やスタッフたちが死体のそばを行ったり来たりする。そして開演である。舞台上の世界であるはずが、カメラはそのまま俳優について劇場の外へ出て行き、話はどんどん展開する。メインのストーリーは娘と近親相姦の関係にある初老の男が、その娘にも嫌悪され、彼女の友人(レナータ)と3人で一夜を過ごすややこしい話である。最初の舞台上の死体とは全くつながりがない。「あなたの作品は決して感動を呼び起こすことがありませんね」というインタビューに対してかつて彼女は次のように答えている。「それは、自分をも含めて人間が、私にとって嫌なものになったからです。人間は死んでこそ、別の存在になり得るのです。これは救いようのない悲観的な考えでしょう。これは生に反することです。人々は生きることを望んでいる、それなのに私は非在を訴えているようなものですから……私は映画を撮るのが好きなだけです。ただ、もし撮影するのなら何かに従って撮る必要があるでしょう。そこで私は私の中にあるものに従って撮っているのです。しかし、あなたが作品は厳しく、残酷だと言うとき、何を意味しているのか分りませんね……私は外形的にはこれ(『無気力症シンドローム』)は充分に愉快な作品だと思います。」現在73歳の彼女はますます健在である。
▲映画「Two in one」(2006)
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